概要

3Kを払拭!物流業界ロボティクス化の未来 #03 【vol.8 クリシナムルティ・アルドチェルワン氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、ラピュタロボティクス株式会社の代表取締役CFOクリシナムルティ・アルドチェルワンさん(以下、アルルさん)にインタビューをしていきます。#03では、ロボティクス化による物流のこれからについてお聞きしていきたいと思います。

プロフィール画像
ラピュタロボティクス株式会社代表取締役CFO クリシナムルティ・アルドチェルワン氏
東京工業大学にて制御・システムエンジニアリングの学士号を取得。コロンビア大学にて経済数学修士号を取得。2010年、野村証券にてエクイティデリバティブのアナリストとして勤務後、​​2013年にはグローバルマクロヘッジファンド「FUND OF TOKYO」の共同創業者兼CIOを務める。2014年に共同創設者である代表取締役CEOモーハナラージャー・ガジャン氏と共にラピュタロボティクス株式会社を設立。

ロボットが解決に導く3Kのイメージ

ー 物流業界は3K(きつい・汚い・危険)のイメージから、世間には過酷な業界だという印象を持たれている面もあるかと思います。アルルさんは3Kに分類される労働をどのようにお考えですか。

そうですね。まず「きつい」「汚い」「危険」といわれる仕事は機械やロボットを使って自動化・半自動化し、より高度な問題を解決するために人の優秀な脳を使うべきだ、と我々は強く主張しています。

たとえば、癌治療を始めとした医療技術の向上に時間を割くとか。私たちの生活や社会に関する大きな問題を解決するために、人のインテリジェンスを使わなければいけないと思っています。

物流現場以外でも、根本的に「きつい」「汚い」「危険」を伴う仕事はマシンを使って自動化していくべきでしょう。現在、我々はお客様のピッキングに関する生産性を約2倍に向上させ、ロボット導入前のオペレーション時よりも半分以下の時間で作業を終わらせることに貢献しています。

それと今までは、「人間が作業に慣れるまでの時間」に対する課題もありました。我々のロボットを活用すれば、今日初めて作業を行うスタッフでも高い生産性でスタートできる環境を実現できます。

この先自動化が進めば、「きつい」「汚い」「危険」の環境はどんどん変わっていくと思います。

ー なるほど。これから3Kのイメージを刷新していくことになりそうですね。

とはいえ、まだまだ自動化は進んでいません。物流業界だけで考えても5%、全世界・他の業界も含めれば5%未満です。

そもそもロボットのソフトウェアは、現時点ですごく優れたものではありません。これからたくさん進歩しなければなりませんし、その積み重ねでやっと人間のように何でもできるロボットができていきます。そういったロボットができて初めて、3Kの仕事を手伝えるようになるでしょう。人ほど複雑な作業ができないのが、ロボットの現状です。

だからこれからもさらに研究開発を進めて、ソフトウェアの能力を高めていきたいと思います。最終的にロボットが広まっていけば、3Kは解決するでしょう。

インタビューの様子1

自動化に向けた課題感

ー ロボットの進歩が楽しみです。自動化が進んでいる割合が5%とのことですが、世界と比較しても日本はロボティクスが広まっていないように感じます。なぜでしょうか。

実は60年代からある「産業用ロボット」は日本の工場でも広く使われています。世界と比較しても日本はトップレベルですね。つまり工場周りはオートメーションが進んでいるということです。

一方で、工場外やリテールの店舗、スーパーマーケットなどで、どこまでロボットが使われているかというと、世界的にもまだあまり使われていません。日本でロボットを使っているところは、さらに少ないと感じています。

大きな理由のひとつとして、日本では新しいサービスやソリューションを導入する時に、海外と比較してかなり時間がかかる点が挙げられます。たとえばAMRのロボットひとつ取っても、アメリカだと2017年あたりから導入されてスケールしていきました。それが日本ではやっと、2023年の現段階でスケールし始めた状況です。倉庫向けの自動化やリテール周りの自動化についても、海外の方が進んでいます。

つまり新しいものの導入に関して、日本と海外の間でギャップが生まれてしまっています。なぜかというと、海外は「とりあえず導入してみて様子をみましょう」というスピード感があるからです。日本では規制に基づいているか、安全性は担保できるのかといった観点で厳しくチェックされるので、そこが大変な部分ですね。

さらにいえば、物流業界では本社と現場の温度感が違うところも難しいポイントです。どこか1カ所で決めて動けるわけではないので、本社と現場両方が賛同して、みんなで認識を合わせないと自動化はなかなか進みません。そこもひとつのハードルになっているので、変えていかなければならないと思います。

ー 日本にロボティクスを広めるためには何が必要なのでしょうか。

そうですね。人と同じくらいの思考ができるソフトウェアの誕生と、ハードウェアがそれを支えられるようになることがまず第一です。

そのうえで、ロボティクスの普及のためには価格を抑える必要もあります。なぜ今ロボットがスケールしつつあるかというと、ロボットのハード部分の値段が下がってきたからです。お客様が重点を置くのは、「どのくらい生産性が高まるか、どのくらい費用がかかるか、どのくらいの期間で投資分を回収できるか」といった点であり、ハードやソフトに関わらず安い方がいいのは間違いないんですよね。

値段をぐっと下げるためには量産するしかありません。そうなれば我々もハードをもう少し安く作れるようになります。そこまで条件が揃ってくれば、世の中にロボットが普及するのではないかと思います。

物流倉庫に関しては条件が揃ってきたタイミングでもあるので、今後が面白い業界とも思っています。

インタビューの様子2

物流への挑戦で世の中にインパクトを残す

ー 物流業界を若者の力でより盛り上げたいと考えています。物流業界にこれからチャレンジする意義を教えてください。

物流業界には大きなチャンスがあります。95%の市場が半世紀以上何も変わらず、続いてきた業界です。だから小さな変革で大きなインパクトを出しやすいと思います。

今まではメーカーとリテールが進歩してきましたが、その間にある物流は変わってきませんでした。そこが今大きく変わろうとしている、いいタイミングです。チャレンジすれば大きなインパクトを世の中に与えられるやりがいがあります。

私自身、自分の時間をどこに使えば、世の中に大きなインパクトを与えられるかと常に考えてきました。いつか自分が亡くなる時までに、少しでも社会に貢献し、業界に大きなインパクトを残したいと思っています。

特に日本の物流業界にはまだ課題が残っているので、今後10年は若い方がチャレンジできる業界であるのは間違いありません。

ー 最後に、今後はアルルさんはどのような挑戦をされていきたいですか。

人がもっとクリエイティブな仕事に集中できる世界を作っていきたいと思っています。

今提供しているのはあくまでも一部のソリューションで、それ以外にも物流業界に関する2つのソリューションを開発中です。これから3〜5年の間はそちらに注力して、世の中にしっかり価値を出していきたいと思います。

今は物流業界の生産性を2〜3倍まで向上できていますが、5〜10倍まで上げていくことができないかと挑戦中です。

ー 今後の取り組みが楽しみです!ありがとうございました。

インタビューの様子3

<取材・編集:ロジ人編集部>

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