概要

本質を捉え、仲間と共に壁を乗り越える秘訣 #02 【vol.8 クリシナムルティ・アルドチェルワン氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、ラピュタロボティクス株式会社の代表取締役CFOクリシナムルティ・アルドチェルワンさん(以下、アルルさん)にインタビューをしていきます。#02では、自動化への壁についてお聞きしていきたいと思います。

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ラピュタロボティクス株式会社代表取締役CFO クリシナムルティ・アルドチェルワン氏
東京工業大学にて制御・システムエンジニアリングの学士号を取得。コロンビア大学にて経済数学修士号を取得。2010年、野村証券にてエクイティデリバティブのアナリストとして勤務後、​​2013年にはグローバルマクロヘッジファンド「FUND OF TOKYO」の共同創業者兼CIOを務める。2014年に共同創設者である代表取締役CEOモーハナラージャー・ガジャン氏と共にラピュタロボティクス株式会社を設立。

ロボット安定稼働までの高い壁

ー 物流業界において、もっとも大変だった経験をお聞かせいただけますか。

そうですね。もっとも大変だったのは、現場で使えるソリューションにするまでの過程です。

設立当時まだロボットが走行する技術もない中で、一定距離を安全に動くロボットを開発しました。しかしそれだけですと、まだ現場では使えません。現場には複雑かつ不安定な要素があって、全部をクリアしなければなりませんからね。それをクリアにして、お客様が使えるレベルに持っていくまでは大変でした。

まずオーダーに応じたピッキングの最適化が大事です。どの注文を、どのロボットに割り当てれば一番効率がよいのか。AとBのオーダーをロボット同士でどのようにマッチングさせれば、生産性を最大化できるのかがひとつの論点ですね。そこをクリアするだけでも、様々なアルゴリズムを試す必要がありました。

もうひとつの現場の課題は、もともとある現場の運用とロボット運用の両立です。

「人」は最も予測がつきにくく、突然現場を離れたり、作業にあたる人数が少なくなったりする可能性があります。人の不確実な要素をいかに取り除いて、オペレーションが回る仕組みを作れるかが、難しかったです。

最後にロボットの渋滞問題です。

人とロボットが一緒に動くので、狭いスペースでは渋滞が起こることがあります。アルゴリズムでチューニングしたり、渋滞回避のアルゴリズムを入れたりして解決してきました。

いろんな問題が出てきて、ひとつずつ潰して、それで初めて実稼働できる状態になったのが実情です。乗り越えなければならなかった壁でもあります。

また物流現場では季節による物量の波動があったり、週末も含めてロボットを使いたいお客様がいらっしゃいますので、そのサポート体制を含めて練り上げてきました。提供できる形を構築するまでは、大きなハードルであったと思います。

ー 安定的に稼働するまで、どれくらいの年月がかかりましたか。

我々がソリューションを作り始めたのは2018年です。そしてお客様に公開して実証を始めたのが2019年。そこから安定的に稼働するまで、1年かかりました。

つまり基本機能を備えて現場で使ってもらうまでに1年、そこから安定的に稼働できるまで、また1年。ここに来るまで合わせて2年ほどかかっています。ロボットが動くことと現場で使えることは、全く別問題ですからね。

その間には退職したプロダクトマネージャーもいましたので、高い壁であったといえるでしょう。ただその壁を乗り越えることによって、現場で使えるロボットが実現できました。

壁を乗り越える秘訣は6つのコアバリュー

ー 安定稼働までの厳しい状況の中でも、皆さん一丸となってやってこられたんですね。

そうですね。その厳しさを乗り越えられたのは、一緒にやってきたメンバーのおかげです。ミッション・ビジョンに共感して会社に入ってきてくれたからこそ、壁も一緒に乗り越えていくことができました。

社内では「コアバリュー」と呼ばれる社内の共通認識や行動指針を浸透させることで、働きやすい環境を作ってきました。1人で全部の仕事はできませんし、必ずチームで仕事をしなければいけない、と我々は考えています。

また、人が集まって仕事をする際、しっかりとしたベースラインがないとうまくいきません。そのベースラインとして、コアバリューを打ち出しています。

【6つのコアバリュー】
・Empathy(共感)
・Openness(透明性)
・First Principles(物事の本質)
・Simplicity(わかりやすさ)
・Drive(自主性の尊重)
・Fearlessness(失敗を恐れない心)
といった6つの項目があります。この6つがあることによって、ディスカッションや意思決定をコアバリューベースでできるようにしているのです。

ー どのようにコアバリューを浸透させてきたのでしょうか。理念を掲げる会社は多いものの、活用するのはなかなか難しいのではないかと思います。

確かに浸透させるのは難しいですね。浸透させるためにできるだけ会話やミーティングをする時にも、コアバリューに沿って意思決定をしています。

たとえば、ある課題を解決するときに、「”Empathy(共感)”がコアバリューのひとつなので、まずは人の話を聞き共感することに努めましょう」と一言声をかけるとか。設計時、道を走るための幅が狭いなどのいろんな条件があるときに、「”Simplicity(わかりやすさ)”がひとつのコアバリューなので、シンプルにするにはこう作るべきだよね」とか。

日常で起きている課題や判断に対して、コアバリューを使っていくのが有効だと思います。みんなが忘れないよう、社内の目につく場所にコアバリューのポスターを貼っていますが、やはり効果が大きいのは日常から使っていくことです。

コアバリューにもとづいて採用を行っている側面もあります。話してみて「ちょっと”Openness(透明性)”が足りない」と感じた場合はそこで採用は見送るといった感じですね。

ミッション・ビジョン、そしてコアバリューがあったうえで、それらにしっかり共感したメンバーと一緒にやってきたので、壁を乗り越えることができたと思います。これからももっと大きな壁に立ち向かわなければならないこともあるでしょう。そのときも共通のビジョンがあれば、乗り越えられると考えています。

多様性から生まれる「なぜ?」が引き出す本質

ー ありがとうございます。貴社は20カ国以上のメンバーが参加し、様々なバックグラウンドをお持ちの方がいらっしゃると聞いています。多様性がもたらすよい影響を教えてください。

非常によい質問ですね。多様性がもたらすよい影響として「これが正しい」「これが普通」という固定観念がなくなります

たとえば日本人にとっては普通なことであっても、インド人やアメリカ人から見れば全然違うかもしれません。そういった違いを感じることで改めて「なぜ?」と問う場面が多くなります。

よくありがちな間違いとして「普通こうだから、こうやりましょう」と進めてしまうやり方があります。そうすると以前からある課題も見直すことなく、一緒に取り入れてしまうことになってしまい、適切な方法とはいえません。多様性があることで「なぜ?」という質問をたくさん繰り返し、本質的なポイントにたどり着けます。そこはとてもよいところだなと私自身、考えています。

ー 多様な意見から物事の本質が見えてくるんですね。物流業界全体に多様性を増やすためにどのようなアプローチができると思いますか。

多様性を重んじるという観点から我々が行っている取り組みとしては、世界中の人々がロボットを使えるように、様々な言語対応をしています。

日本ではあまり見られない光景ですが、アメリカではロボットを触る前に自分のカードをスキャンしています。アメリカ人だと英語、メキシコ人だとスペイン語に表示が変わる仕様です。そうすることによって、言語の壁がなくなり、多様なバックグラウンドを持つ方が現場で活躍できると思います。

さらに、多様性を重んじるために、物流現場がハードワークである印象を変えていかなければならないと考えています。先ほどもお伝えした通り(#01の記事より)ピッカーが1日20キロ歩いてモノを運ぶとすれば、人に対する負担は大きいでしょう。

そのため、ピッキング作業にロボットを導入し、生産性を向上させることで人に対する負担を減らす必要があります。ひとつのモノをピックするのに70〜80秒かかっていたところを、ロボットと協働することで20〜30秒で完了できるようになります。現場にDXを推進することで、働き手にとってより魅力のある物流業界に変革していきたいと思います。

ー 年齢や性別を問わず関わりたいと思ってもらえるような、魅力のある物流業界にしていきたいですね!

インタビューの様子3

<取材・編集:ロジ人編集部>

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