概要
物流なくして経営は成り立たない #03 【vol.6 小橋重信氏】
ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、物流コンサルタントとして活躍する傍ら、YouTubeやセミナーで積極的に情報発信をされている株式会社Linkth(リンクス)代表取締役小橋さんにインタビューをしていきます。#03ではコロナ禍で変わった物流業界について、また若者に向けて物流業界にチャレンジする意義をお聞きしていきたいと思います。
▼ 株式会社Linkth代表取締役 小橋重信氏
アパレル会社にてブランドマーチャンダイジングを含めた運営にかかわり、会社の上場から倒産までを経験。その後IT企業を経て、3PL物流会社にて多くのファッション企業のBtoB、BtoC、オムニチャネル物流の新規立ち上げから運用を行う。2018年、「物流から荷主企業を元気にする」ことを目標に物流コンサルティングを行う株式会社Linkthを立ち上げ。「ファッション×IT×物流」トータルでのコンサルティング活動を行う。近著に『全図解 メーカーの仕事』。
コロナ禍で気づかされた在庫の怖さ
ー コロナ禍で、私たちのライフスタイルは大きく変わりましたが、「ファッション×IT×物流」トータルでのコンサルティング活動をしている小橋さんから見て、アパレル業界ではどのような変化がありましたか。
コロナ禍前のアパレル企業は店舗での売上を重視しているところが多かったです。しかし、どうにもならなくなったのがこのコロナ禍だと思います。
コロナ禍前は、定休日が無くなるほど小売店は盛況でした。しかし、コロナ禍の外出自粛に伴い、一転して強制的に店舗を閉じなければいけなくなった際、店舗でモノが販売できないという状況に変化しました。さて、どうやって商品を販売すればよいのかという岐路に立ったとき、「インターネットを使ってモノを販売する」流れに変化したことがポイントだと思います。
ー なるほど。それによりモノの流れも変化したのでしょうか。
店舗での販売が向かい風を受けたことによって、商品が売れ残り、倉庫内で在庫が滞留し、経営が厳しくなってしまった会社もあると思います。私が物流会社で営業を行っていた際、顧客の現場を拝見すると、前職のアパレル会社と同様にお金に変わらない在庫を抱え、いつ倒産してもおかしくない会社が沢山ありました。
大量に在庫を抱え、売り切れないからセールにする。セールでも売り切れない場合、最後にバッタ屋※に販売する、もしくは廃棄するといったことを行っています。
※バッタ屋:正規ルートを通さずに仕入れた品物を安値で売る店や商人のこと
しかし、コロナ禍で強制的に在庫を減らさざるを得なかったり、店舗の休業により発注量を抑えたりする動きがあり、ここ数年で在庫の持ち方が変わってきたと思います。そこまで在庫は必要ないことに気づき始めた、ということです。
インターネットを使って顧客と直接接点を作り販売すること、そして店舗で販売していたときよりも少ない在庫で商売できることへの関心が高まったことが、コロナ禍による変化だと思います。
「カイテン倉庫」の価値
ー 経済の急激な変化により在庫が滞留し、倒産の危機に直面する会社がある点に関心を持ちました。物流会社の立場として解決可能でしょうか。
可能です。現状、アパレル会社は期末になるとバッタ屋に在庫を販売することが多く、在庫を売り捌ける人が少ないことが課題です。決算だから何とかしなければというきっかけで、最後の最後に行き場を失った在庫に手をつけることが多い。
つまり、アパレル企業の在庫をより高く売れる仕組みを作る、という点で物流会社はさらに価値を提供することができます。
ー アパレル企業が不良在庫を安く販売してしまう現状に対し、物流会社側がより高く販売する仕組みを作るということですね。前職の物流会社ではそのような仕組み作りをされたのでしょうか。
「カイテン倉庫」というサービスを立ち上げました。
倉庫に残っている在庫を物流会社が代理販売するサービスになります。アパレル企業にとって、バッタ屋に卸すことは、安値での販売となるためブランド毀損のリスクがあります。しかし「カイテン倉庫」は期間限定で販売する、特定会員のみに販売することで、高値での販売を実現し、ブランド価値を維持することが可能となっています。
物流業界にチャレンジする意義
ー 「モノを流す」以外で物流会社が価値を出すことができる、ということですね。今後も、物流業界はプラスアルファで価値を提供し続ける土壌があるということでしょうか。
あります。ピーター・ドラッカーの言葉で、「物流とは最後の暗黒大陸である」という言葉がありますが、今後も物流がブルーオーシャンであり続けると思います。
二つ理由があり、一つ目はバーチャルの世界における変化によってフィジカルの世界が変わらざるを得ないためです。近年、IT企業が行ってきたことは、あくまでもバーチャルの世界における改革です。バーチャルの世界において、どのようにものごとを効率化し、課題解決するかという話が中心でした。
しかし、バーチャルをフィジカルに繋げていくことではじめてものごとが完結します。そのため、二つをどのように繋げていくかを考える必要があると思います。バーチャルに対応したフィジカルを握れる会社が第2のGAFAになるでしょう。
ー なるほど。仮想的な空間で変化したことを物理的な空間で実現する必要があるんですね。二つ目の理由は何でしょうか。
二つ目は、物流が経営に直接紐づいているためです。マーケティングなど上流の部分で成功した場合、下流にいる物流が増加した商品を捌くだけの力が必要です。その観点から、マーケティングのクオリティーが高くても、最終的に消費者に届けるという部分が機能していないと経営は破綻します。
つまり、経営の根幹を握るためには物流も重要視されるべきだと思います。海外企業の場合、CLO※というポジションがあり、物流を知る人間が経営の中枢を担っているわけです。
※CLO:Chief Logistics Officer、「最高ロジスティクス責任者」のこと。企業あるいは企業グループのロジスティクス領域で財務分析、戦略立案、課題解決を行う
「経営は物流を理解すること」だと思います。会社を経営するうえで、どうすれば少ない在庫でより多くのお金を生み出せるかを考えなくてはなりません。大量に売れるモノを作っても、在庫を残した会社は倒産してしまいます。物流を知らないと経営は成り立たない、そう思います。
ー モノを売ることは、消費者に商品が届いてはじめて成立するということですね。日本の物流はクオリティーが高いといわれていますが、今後どのように変化していくでしょうか。
日本は物流のクオリティーが高く、モノが簡単に届く世界です。しかし、残業時間の上限規制により労働時間が減少すること、また働き手が少なくなっていることから、物流の限界は迫りつつあります。当たり前にモノが届くという世界が成り立たなくなる、ということですね。
だからこそ、この先ビジネスにおいて物流と経営が密接にかかわってくることは間違いなく、是非物流業界にチャレンジしてほしいと思います。
今の物流業界は高齢化が進んでおり、重要な役割を担っているのにも関わらず脆弱な仕組みで成り立っています。若手が物流を変えていくことができれば、業界はより良くなっていくと思いますし、逆にそこからでしか日本は元気にならないかもしれません。
ー 当たり前にモノが届くこと、そこに課題と可能性があることがよく分かりました。本日はお時間いただきありがとうございました!
(インタビュアー:難波)