概要

物流の情報発信をする理由 #01 【vol.6 小橋重信氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、物流コンサルタントとして活躍する傍ら、YouTubeやセミナーで積極的に情報発信をされている株式会社Linkth(リンクス)代表取締役小橋さんにインタビューをしていきます。#01ではYouTubeチャンネル「ロジカイギ」など情報発信を精力的にされている背景についてお聞きしていきたいと思います。

株式会社Linkth代表取締役 小橋重信氏

アパレル会社にてブランドマーチャンダイジングを含めた運営にかかわり、会社の上場から倒産までを経験。その後IT企業を経て、3PL物流会社にて多くのファッション企業のBtoB、BtoC、オムニチャネル物流の新規立ち上げから運用を行う。2018年、「物流から荷主企業を元気にする」ことを目標に物流コンサルティングを行う株式会社Linkthを立ち上げ。「ファッション×IT×物流」トータルでのコンサルティング活動を行う。近著に『全図解 メーカーの仕事』。

「ロジカイギ」始動のきっかけ

ー YouTubeで「ロジカイギ」というチャンネルを運営されていますが、どういったきっかけで始められたのかお伺いしたいです。

ロジカイギ」は現代物流のバックヤードを語る、というコンセプトのもと、他では話されない物流のコアな情報を配信しています。具体的に物流の基礎的な知識から、コンサルタントの仕事内容、現場ノウハウ等などを雑談形式でお伝えするメディアとなっており、株式会社TALKLOREの伊藤さん、トランスフィード株式会社の長井さん、そして私の三人で運営しています。

「ロジカイギ」を始めたきっかけは、生活をするうえで物流がとても重要な役割を担っていながら、その価値が一般の人に伝わっていないことに問題意識を感じたからです。現状、物流はやはり3K※のイメージ、労働集約型の産業というイメージが依然として強いと思います。
※3K:「きつい・汚い・危険」の頭文字「K」3つを取った言葉で、労働条件が厳しい職業のことを指す

そのため「ロジカイギ」のコンテンツとして、物流のありのままをお伝えできるよう努めています。例えば、現場で働く方の朝礼やラジオ体操などについてお話しています。

軽視される物流の価値

ー なるほど。物流の価値をより多くの人に伝えるために情報発信をされているということですね。小橋さんはどのような経緯で物流の価値を知ったのでしょうか。

私自身、元々は物流をネガティブに思っている立場にいましたが、ある時期をきっかけに物流の価値を知りました。それを知れば知るほど、なぜ軽視されるのか、評価されないのか、価値が理解されないのかということを痛感しました。

ー ネガティブに思っている立場とは具体的にどういったことでしょうか。

私はファーストキャリアでアパレル会社に就職し、営業部門に配属されました。当時のアパレル会社では、営業やマーケティングが花形部門で、物流や製造が花形ではない部門とされていました。

花形である営業部門で仕事をする中で、物流は価値を生んでいない部門だと感じていました。指示された商品を店舗に出荷するだけで、何か問題があれば営業側が迷惑を被るからです。

しかし、巡り巡って物流業界に転職することになり、今度は営業としてアパレル会社に対して「物流の仕事をください」という立場になりました。 そこで物流の価値を知り、またその価値が軽視されていることを知りました。

ー 実際に、物流の価値が軽視されていると感じた経験があればお伺いしたいです。

大手アパレル会社に提案の機会をいただき、営業に行ったときの話になります。顧客の抱える現場作業での悩みや課題を引き出し、それに対する改善策を提案しようと考えていたため、まずは現状をヒアリングしようと考えていました。

しかし、課題をヒアリングしようとするも、「先に見積もりを出して」と言われたのです。訳を聞くと、現在行っている入荷作業の単価が30円だから20円にしてくれたら提案を聞きます、ということのようでした。これが、メーカーにとって、物流は安ければいいという存在でしかないことを知った瞬間でした。

実際、入荷作業の単価を30円から20円にするためには、作業そのものをどう改善するかという倉庫内の努力だけでなく、上流側を改善するという荷主側※の努力も必要です。
※荷主:輸送・保管など、物流業務の依頼主

また、材料の調達から商品の製造、店舗への流通、最後に消費者に販売するところまで、トータルの物流コストをどれだけ下げられるか、という観点も必要になります。つまり、仕入から販売までの全体デザインにメスを入れる努力をしなければなりません。

ー 他にも、物流の価値が軽視されていると感じた経験はありますか。

その後、物流センターの責任者をやりました。

荷主のアパレル会社が店舗とECで同時に販売する方法に変更するとなったときのことです。店舗経由、EC経由、両方の注文を倉庫が発送するため、注文側(店舗・EC)と受注側(倉庫)の情報を正しく連携する必要がありました。連携されていない場合、欠品している商品を注文出来る望ましくない状況が発生してしまうからです。

しかし、上流側からどこにどのような情報を渡してくださいね、という共有がありませんでした。ですので、倉庫側のエンジニアが夜なべして、情報をどこに渡すか、どのように渡すかを考え、システム設計を考えなければなりませんでした。

また、そこに要した物流システムの改修費は支払われません。なぜかというと、物流システムは物流会社側の仕組みであり、荷主企業からすると関係がないと認識されていたからだと思います。荷主企業の目線では商品が出荷されれば良いとされ、物流自体が軽視されていると感じました経験になります。

価値が伝わらない理由

ー なぜ物流の価値が伝わっていないのでしょうか。

物流の価値について情報発信する人が少ないことが課題です。商流のマーケティングに関するセミナーに伺った際、当時、物流会社の担当者はほぼゼロでした。そこで知り合った川添さん(川添隆氏/現株式会社ビジョナリーホールディングス取締役)が主催していたゾエ会という会合でも物流担当者は私一人でした。

では、なぜ物流担当者はそういった外部のセミナーに参加しないのか。それは、セミナーに参加する余裕が無い、参加する余裕があれば倉庫から商品を出荷させなくては、という状況だからです。

つまり、物流担当者が外に出て物流の話をする、話を聞くという機会が少ない。また物流会社を集めて物流の話をすることはありますが、荷主企業が集まる場所で物流の価値を伝えることは少ないです。

ー 物流業界の中で話が完結しているということでしょうか。

はい。そのため、一般の人に物流の内情が明かされない。皆さんの物流のイメージは概ね、配送会社が汗をかいて、一生懸命荷物を届けるというものです。しかし、実際の物流の全体像からは、配送会社が配達するというのはある一つの部分でしかありません。

(インタビュアー:難波)

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