概要
物流業界で働くとは「社会の歯車を回す」ということ #02 【vol.4 河合亜矢子教授】
ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。前回に引き続き、学習院大学経済学部経営学科の河合教授にお時間をいただきました。#02では河合教授の今後の挑戦や、物流業界に入った新入社員の方々に向けたメッセージなどをいただいています。
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▶︎ 河合 亜矢子 教授
2000年に筑波大学第三学群社会工学類卒業後、物流企業に入社。2003年に同社を退職し、筑波大学大学院システム情報工学研究科修士課程修了、同博士課程修了。2010年に高千穂大学経営学部に着任。2017年より、学習院大学経済学部経営学科に着任。研究分野はサプライチェーン・マネジメント、オペレーションズ・マネジメント、経営情報システム。
▶︎ インタビュアー:水間 早耶
2022年に大学卒業後、(株)ダイアログ(「ロジ人」運営局(株)d2connectの親会社)に新卒社員として入社。 入社半年ながら、物流現場の業務改善を進めるコンサルタントとして活躍中。 就職活動では「社会のインフラに関わる仕事がしたい」という想いから、物流業界を志望するように。 大学ではポルトガル語学科を専攻。趣味はスノボやSUP、体を動かすアクティビティなど。
「見える化」への挑戦
ー 直近で挑戦したいことや目標についてお伺いしたいです。
やりたいことは今、二つあります。
一つ目は、サーキュラーサプライチェーンとかサーキュラーエコノミーという考え方がすごく気になっていて、それをちゃんと本場のオランダに行って勉強してみたいです。
サーキュラーエコノミーというのは、サステナビリティの観点から、次の世代にできるだけ綺麗な状態で地球を引き継いでいくための経済活動そのものですね。
二つ目は足元の課題に関するもので、【 流通在庫※ 】を見える化したいと思っています。
※流通在庫:商品が流通して、業者によって保管されている在庫
進んだ企業では自社在庫の見える化には取り組んでいますが、サプライチェーンの中に存在している流通在庫が今現在一体いくつあって、将来的にはどうなる予定なのか、そして、どれくらいのモノが無駄になっているのかというのは、誰にも見えてない状況になっています。
それが見えているのはユニクロさんやニトリさん等、製造小売業の会社だけで、企業をまたぐと見えないんですね。ここを見える化することによって、どれだけの社会的なインパクトがあるかっていうのを言葉だけでなく、はっきりとしたエビデンスとして示したいと思っています。
この話は夢物語で終わらせる気はなくて、すぐにでも何とかしたいと思ってあちこちで暗躍しています(笑) 真面目な話、今年中にでも結果を出したいというくらいの勢いです。そのためにはトライアンドエラーをしていくしかない。全部設計してから実行していくのでは動きが遅すぎます。
失敗してもいいから小さなプロジェクトを回してみて、得られた結果をどんどん発信し、仲間を募ることが大事。仲間を作って、【 デファクトスタンダード※ 】を作っていくっていうのが大切だと思います。「標準化」の野望を今まさに持っています。
※デファクトスタンダード:事実上の標準を意味する言葉。公的な標準化機関から認証を受けるのではなく、市場における競合他社との競争によって、業界標準として認められるようになった規格を指す。
予算がないとか、リスクがわからないとか、やらないことの理由はいくらでも積み上げられますが、そういうことを言っている場合ではありません。いまや、やらないことがリスク、という時代に突入しています。Excelベースでいいから始めてみたい。重要性が分かれば、投資への動機づけになると思います。
物流は仕組みを考えること
ー 昨今の物流業界は大きな変化があると思うのですが、河合教授からの視点で今後の業界はどのように動くとお考えですか。
まず、すごく面白い業界だっていうのが前提としてあります。
私はトラックも大好き。かっこいいですよね。倉庫も大好きです。モノが動いていく現場、ワクワクしますよね。なので、物流現場の面白さも是非知って欲しいと思います。
でも、私が「物流」という言葉を使う時、それは往々にして「仕組み」を意図しています。物流は仕組みを考えることなので、倉庫を最適に使うためにはどうすればいいか、情報システムをどのように導入するか、スムーズにモノを運ぶために物流だけでなくその上の商流がどうなっているべきかなど、多くの仕組みを考えないといけません。
新社会人の人たちにも仕組みづくりに興味を持つ人は多いと思います。物流も仕組みづくりだということを理解してもらい、自分が作り上げたもので実際にモノが、世の中が動くという高揚感。歯車を回す担い手になるっていうところの面白さを是非感じて、チャレンジしてほしいなと思います。
相互理解に取り組む世界の実現
ー ありがとうございます。物流やSCMはどうしてもステークホルダーが多すぎて、自分一人じゃどうにもできないことも多いと思います。新入社員の方々は、どのように向き合えばいいんでしょうか。
そこは、なかなか新入社員の人ができるようなことって少ないかもしれないですが、そういうことをちゃんとわかった人が経営陣になっていかないと、世の中は変わらないんですよね。
だから、今年入社した人がすぐに物流を最適化できるような仕事ができるかというとそうではなくて、数年、十数何年かかるかもしれないけれども、様々な経験を積み、知識を蓄え、壁にぶち当たりながら徐々に手の届く範囲を広げていくしかないと思うのです。
どんな仕事でも同じだと思いますが、物流にかかわる仕事もまた、目の前の仕事をひとつずつ誠実にこなしていきながら、自分自身の中に発見と解決の経験を積み上げていくことが地道ですが、結局一番の近道です。
新入社員の人たちにはそこをわかってもらうことが大切ですね。一足飛びにとはいきません。なので、少し歩みを速めるための方策としては、今すでにマネジメント層にいる人に直接訴えかけていく、という二段構えでいくしかないと思います。
新社会人の皆さんにそういう面白さを伝えていくっていうこと、マネジメント層の人たちには、しっかり色んなステークホルダーの人と一つのテーブルについて、「今の社会的課題に正面から取り組み、サプライチェーンを全体最適化すると、結局そのことが自社にとっても良い結果となって返ってくる」ということをわかってもらう必要があると思います。
2022年の5月から6月にかけて、学習院大学のさくらアカデミーで日本小売業協会主催のCIOアカデミーを開催し、流通業界(小売業者、卸売業者、IT企業等)のCEOやCIOになっていく手前の人たち、役員クラスの方々に集まってもらいました。
そこで「情報システムマネジメントとプロセスマネジメントが表裏一体であり、これらのマネジメントに経営陣がコミットすることのが何よりも大事なんだよ」ということ、
さらには「物流というものに対する問題意識を持たないとモノが運べなくなりますよ、社会に血が流れ続けますよ。何より、物流危機解決の鍵は小売業にありますよ」などをお伝えすることで、自分ごととして捉えてもらうビジネススクールです。
実際にアカデミーで、ステークホルダーの方と顔を合わせて今現在の課題を考えるためのテーブルについていただいたところ、ある大手企業さんから
「いつも取引先さんとは、どうやって有利な取引条件を引き出すかという意識でしか話して来なかった。横並びに座ってみて、現場の問題について話をしたのは今回が初めてです。このような問題があることを私達は知らなくて、何とかしないと本当に社会が潰れてしまうということが初めてわかりました。この関係をこれからも継続して、次のテーブルでは、社会課題を解決することにフォーカスして皆さんとしっかり連携をしていきたい。」というようなお話をいただき、感激で思わず涙ぐんでしまいました。
再三になりますが、両輪が大事かなって思います。みんな知らない可能性があります。ただ自分だけが得をしたいって思っている人はそんなにいなくて、ただお隣のことを知らないから上手くいかないのかもしれない。なので、同じテーブルに同じ目線で座れば見えてくることって結構あると思っていて、これからもお互いの状況を知るためのきっかけづくりをお手伝いできたらと思います。
ー #01での話(前回の記事はコチラ)にも通じますが、まず経営者の注意がロジスティクスにいってないということですよね。
そうですね。だからまず、経営者に考えるきっかけを与えることが必要なのです。
ー 若手の社会人や、普段は物流を意識していない人たちに対して、意識付けをするにはどのような策があるとお考えですか。
今回のコロナのことで、マスクがなくなったり、スパゲッティがなくなったり、今まで当たり前だったものが無くなったことで身近に感じたことも多いと思います。物流って、空気みたいなもので、実際に無くなってみないとその価値を意識しづらいですよね。
今回のコロナや不安定な国際情勢は、サプライチェーンのどこかが途切れてしまうと自分の手元にモノが届かないということを「知る機会」になりました。学生に私がいつも聞くのは「手に入らないとしたらどうしますか」ということです。便利な世の中に慣れて、普段あまり困ることのない人たちですから、実際に困ってもらうっていうのはすごく大事なんですよね。
「モノの流れ」は変わらない
ー 物流業界のこれからの担い手へのメッセージをお願いできますでしょうか。
とにかく古今東西変わらないことは、モノの流れなんですね。モノの流れは止まらない。たとえメタバースが流行ろうと、何が流行ろうと。人間がリアルな世界で生きている限り、まだしばらくの間はモノの流れって止まらないですよね。すると、やっぱりチャンスがたくさんある。
さらに言うと、たとえば適正体重が70キロくらいの人が、体重を100キロから90キロに減らすのと、80キロから70キロに減らすのでは難しさが全然違うのと同じように、すでに改善を重ねている現場と、まだまだ手付かずの領域では改善の難しさが異なります。物流業界はまだ100キロの状態なので、いくらでもそぎ落とせるものがあります。
日本では、これから市場が拡大する可能性も少ないし、製造現場ではこれ以上の改善も中々難しいというくらい皆頑張っているけれど、組織と組織を繋ぐ物流のところは、まだまだチャンスがいっぱいという意味では、やりがいのある仕事だと思います。結果が見える仕事ですよね。
あと、物流業界は、自動化、人工知能やロボティクスなど先進的な技術との親和性が高く、日進月歩で非常にダイナミックに技術が進展している領域でもあります。これからは、こうした先端技術の効果的な利活用が生き残りの鍵にもなってきそうですのでそういう意味でもチャンスだと思います。
ー 本日はありがとうございました!