概要

ミライへつなぐロジスティクスを語る #01 【vol.1 秋葉淳一氏】

ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は物流業界の最前線で活躍されている、株式会社フレームワークス代表取締役社長の秋葉さんにお時間をいただきました。物流業界の展望や、業界内の標準化についてお聞きしていきたいと思います。

▼ 株式会社フレームワークス代表取締役社長秋葉淳一氏
株式会社フレームワークス代表取締役社長で物流コンサルティングを手がける。新卒で大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社、制御用コンピューター開発と生産管理システムの構築に従事。その後、多くの企業のSCMシステムの構築とそれにともなうビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングを担当。現在はフレームワークスをはじめ、大和ハウスグループの複数企業で代表取締役や取締役を務める傍ら、学習院大学や金沢工業大学虎ノ門大学院、流通経済大学で教鞭をとる。「ロジスティクスのイノベーションが持続可能な社会を創る」を信念に、企業や業界の枠組みを越え、標準化やSDGsにつながる「共創」の取り組みを発展させられるよう日々、奔走中。

システム導入は誰のためか

ー 最近出版された『ミライへつなぐロジスティクス〜ミナミと学ぶ持続可能な世界』を読ませていただきました。印象に残ったのが「システム導入の際に抵抗感を示す現場の方に丁寧に説明していくやり取りのシーン」で実際にそういうことってよくあったのでしょうか。

それはありましたし、今でもおそらくあります。現在でもロボットなどには多少の抵抗感を持つ人がいますよね。同じように、20年前はシステムを入れること自体に違和感を持つ人がたくさんいたということです。

日本人の特性だと思いますが、真面目に仕事をしていて、自分たちが頑張っているからこそこの現場は成り立っているのだと自信をもっている人がたくさんいる訳です。そういう人たちにとっては、システムを入れて本当に自分たちより仕事ができるのか、システムを入れることによって自分たちの仕事がなくなるんじゃないか、という気持ちになっていたのでしょうね。

ー システム導入による不安は誰にでもありますよね…そういう方々とどうやって対話されてきたんでしょうか。

1つの方法としては、みなさん頑張っておられて成果を出しておられるということを大前提としつつ「面倒くさいと思っている仕事はないですか」「これが勝手にできるようになったらいいなってことないですか」そういうところから入っていくというやり方を取っていました。

2つ目の方法としては、一緒に働いている人の中には仕事が効率的にできる人もできない人もいる中で、どうしてもできる人ができない人のフォローを一生懸命するという構図になりがちなのですが、そういう人たちがもうちょっと仕事の効率が上がる仕組みを入れると、全体として楽になることってありませんか、というアプローチも有効だと思います。

「こういう仕組みを入れます」ではなくて「どういうものがあったらみなさんにとって有益ですか?」から入っていく、そうすると少しずつ心を開いてもらえる。システム導入を提案する側が自分たちの理想をダイレクトに伝えるのではなくて、現場の人たちの意見を取り入れて、みんなにとっての理想形に近づけていくということが重要だと考えています。

ー 「顧客の利益を追求する」という考え方は大事ですよね。秋葉さんはなぜそのように考えていらっしゃるのでしょうか。

それは何故かというと、システム導入までが仕事ではないと考えているからです。私たちは、契約上はシステム導入に対してお客様からお金を頂いていますが、本来はそのシステムが使われ始めてから生み出す成果に対してお金を頂いている訳です。ということは、そのシステムを使うみなさんが納得しなかったら、仕事をしていないのと同じだし、お金を頂いてはいけないと思いませんか。ちゃんと使ってもらって成果を出して初めてお金を頂ける。その考え方がとても大事だと思っています。

日常になくてはならない物流業界

ー 定期配送を活用して物流の負担を減らそうという話がありましたが、それ以外に一個人として私たちができることはありますか。

これは全世代に当てはまることですが、普段の生活のなかで「物流」というものを切り取って考えることはほとんどないと思います。通販でモノが届く、お店に行ったらモノが並んでいる、というのが当たり前のように生活の中にあるわけです。そのときにこれはどうやって届いているのか、どうやってお店に並べられるのか、といったことに少しでも気づいてもらったり知ってもらえたりすれば、それだけで少しずつ変わっていくと思います。

例えば、私もやってしまうんですが、雨が降っていて近くの店に行くのも面倒になって思わずデリバリーを頼んでしまうことがありますよね。そういうときに少し意識するだけで、買い物に行こうかなという気持ちになれるんじゃないかと。

ー 日常に当たり前に溶け込んでいる「物流」の実態を知ろうとする、というのは延いては物流の負担を減らすことに繋がる、ということでしょうか。

2011年の東日本大震災で電力供給が逼迫していた時期がありました。そのときは、企業も個人もみんなが省エネに意識を向け、節電に協力していましたよね。それと同じくみんなが少しずつ物流に意識を向けることで、変わっていくものだと思っています。特に若いみなさんの世代は、持続可能な社会、SDGs、ESG経営といった考え方を学んでこられたので、私たちの世代とくらべて意識が高いと思いますし、それはこれからの時代においては絶対的な強みになっていくと思います。

ー そうですね。私たちのような若い世代は「エコ」からはじまりSDGsなど意識が強いと思います。以前どこかで石鹸は「液体」より「固形」の方が環境に良い(1度の使用量が少ないため)というのを聞いたことがあって。それは環境にもいいですが、液体より固形の方が軽くてかさばらなくて輸送費がかからないんですよね。そういう面で見ればSDGsは広い意味で言えば「物流」という点への環境的貢献かもしれません。一見SDGsと物流ってあまり関係ないように見えて、広く見ると関係があるんだなと気づけることってまだまだたくさんありますよね!

標準化を実現するために

ー もう一つ、「標準化」というキーワードについてはどうお考えでしょうか。

「標準化」というキーワード自体は、何十年も前からあって、そういう活動をしてきた人もいました。では、何十年も経った今どうかというと、日本の物流で唯一標準化されているのは、コンテナのみと言われています。と言っても、20フィートもあれば40フィートもあるし、ハイキューブや「ゴトコン」と言われるJR貨物用もあって、様々あるわけです。

これが本当の意味で標準化なのか、という論点は別にして、サイズ等が明確になっていて、それがずっと長年にわたり使われているという意味では、標準化されているということなのだと思います。これを参考にすると、ひとつの標準にみんなが合わせるのはすごく難しい一方で、いくつかのパターンの標準を作って、どれかに合わせるなら意外とできるのではないか、というヒントが隠されていると思っています。

例としてヨーロッパに目を向けてみると「ユーロパレット」という日本で出回っているパレットサイズとは全く異なるパレットが、100%とまではいきませんが、ほぼ使われています。ヨーロッパでは、ユーロパレットに乗せる前提で外箱を設計し、その外箱に入るように商品をデザインするのが当たり前になっているのです。

ー ヨーロッパでは当たり前に「標準化」がされているんですね…!日本とヨーロッパで何か違いがあるのでしょうか。

あります。これはなぜかというと、EUでは通関なしで多くの国をまたがってものを運ぶ必要があって、そのため標準化しないと運べないということが起こるからなんですね。対して日本の場合はその必要がないので、逆にそれを差別化ポイントだと捉えて、個別化が進んでいきました。それに応える物流会社も「自分たちならできます」といって、差別化のための個別化が進んでいった、よって標準化が進まなかった、ということなんだと捉えています。

ー なるほど。そういう中で、直近の「標準化」の議論は進んでいるのでしょうか。

ここ最近は、今までの議論と変わってきていてみんなが切羽詰まってきていると感じます。トラックドライバー、フォークリフトに乗る人、物流施設で働く人…の人が足りませんという話から始まり、そこに輪をかけて、エネルギー消費量をどう減らすかということが言われています。そのような中で、無駄なことをやっていたら、企業が存続できないという危機感を持ち始め、みんなが真剣に標準化に取り組むようになってきたと捉えています。

しかし一方で先程お話したように、これまでの標準化の議論のやり方では打開策を見出すことが難しいとも思っています。というのも、これまでは業界内で団体を作り、業界内標準を決めていく方法が一般的だったのです。しかし物流は業界をまたがる存在なので、ひとつの業界だけで標準化しても最適解かどうかわからないという問題があるのです。

そこで、最近私が考えているのは、業界をまたがって、かつ各業界のトップ企業を集めて一緒に議論をしましょうというアプローチです。世の中に対するインパクトが大きいうえに、そういう企業が行動しているのだということを色々な人に気づいてもらう狙いを持っています。詳細はまだ話せませんが、それが少しずつ進みだしているというのが現状です。

環境問題と物流

ー 著書の中でSDGsの話がありましたが、具体的にお話をお聞かせいただけますでしょうか。

ずっと物流に携わってきた人たちからすると、エネルギー消費量よりもずっと大切なことがあって、それはお客様に言われた納期にきちんと物を届けることなのです。誰も口に出したりはしませんが、エネルギー消費量を減らそうとすると、お客様の要求に答えられないのでは、という感覚を持っているのだと思います。例えば、ドライバーの待機時間削減の話も、エネルギー消費量のためではなくて、ドライバー不足の中で待機時間がもったいないという観点で捉えているのが実際のところではないかと思います。

エネルギー消費量(サプライチェーン排出量)算定について言えば、いま時点ではScope 1(直接排出量)、Scope 2(間接排出量)が対象となって議論されていますが、将来的にこれがScope 3まで行くと、サプライチェーン全体での排出量を算定しなさい、という世界になります。今後EUが先導して国際的な枠組みになっていくと思われますが、そういったときに、若い世代の感覚が必要になってくるはずだと思っています。というのも、私たちの世代は、SDGsに関わるとプラスだよねという感覚を持っているのに対して、若いみなさんの世代は、SDGsをやっていないとマイナスだという感覚を持っている。この違いはとても大きいと思います。

ー 実際、環境問題という大きい問題よりも、自社内での労働時間削減という比較的小さい問題の方が我々にとっては大きいものだったりしますよね…現在、物流業界のトレンドとして「フィジカルインターネット」という言葉をよく耳にします。フィジカルインターネットが実現すれば、輸配送が標準化・共通化され、無駄がなくなるとは思う一方で、メーカー・小売の売上が下がってしまうのではないかと思います。そういう意味で実現に向けてはハードルが高いのではないかと思いますが、どうお考えでしょうか。

表現が難しいですが、フィジカルインターネットの定義、というか、あるべき究極の形から入って整理しようとすると、難しく感じるのかもしれません。これは、標準化の議論と一緒だと思っていて、ガチガチの標準を決めてしまおうとすると競争優位がなくなり、そもそもみんながそれを使いますか、という議論に至ってしまうということです。とすると、一定の遊びを残すことが普及するためには重要で、そこが競争領域と協調領域でいうところの競争領域になっていくのだと思います。

もう一つの観点として対極にある考え方、すなわち、それぞれがそれぞれでやりましょうという世界からスタートしてみると考えやすいかもしれません。そうすると、それぞれがそれぞれでやらなくてもいい領域が見えてきて、例えば、運送でも幹線輸送はそれぞれがやらなくてもいいんじゃない?といったように、協調できるところが作れると思います。もちろん、究極形としてのフィジカルインターネットの概念を知ることは重要だと思いますが、それを知った上で、地に足をつけてどこまで進みますか、という考え方が重要なのではないかと捉えています。

ー なるほど。「フィジカルインターネット」の実現というところをゴールとしてやり方を考えるのが正しいと思っていました。しかしそこは必ずしもゴールとせず、まずは対極にある考え方から入る、というのは斬新ですね…。

フィジカルインターネットの世界では各社の売上が減るのでは?という点については、必ずしもそうだとは思っていません。売上はもしかしたら下がるかもしれないですが、利益率は上がると思っています。

というのも、嗜好品を除けば、人間が消費する総量はそんなに変わらないものです。例えば水を引き合いに出すと、アルカリイオン水、天然水など色々な種類がありますが、一週間でそのエリアで消費される水の量は大して変動しませんよね。なのに、それぞれのメーカー、小売がシェアを取る競争をやっているから、常に余分のある状態で作り、運び、保管するということが起こっているわけです。ですので、フィジカルインターネットが実現され無駄の少ない世界になったときに、売上が下がることはあるかもしれませんが、無駄がなくなった分、営業効率が良くなって利益率は上がるはずだと思うのです。

(インタビュアー:小早川)

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