概要

ミライへつなぐロジスティクスを語る #02 【vol.1 秋葉淳一氏】

ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、現在物流業界でご活躍されている株式会社フレームワークス代表取締役社長の秋葉さんがどのような経緯で物流業界に参入されたのか、今後の物流業界についてをお聞きしていきたいと思います。

▼ 株式会社フレームワークス代表取締役社長秋葉淳一氏
株式会社フレームワークス代表取締役社長で物流コンサルティングを手がける。新卒で大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社、制御用コンピューター開発と生産管理システムの構築に従事。その後、多くの企業のSCMシステムの構築とそれにともなうビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングを担当。現在はフレームワークスをはじめ、大和ハウスグループの複数企業で代表取締役や取締役を務める傍ら、学習院大学や金沢工業大学虎ノ門大学院、流通経済大学で教鞭をとる。「ロジスティクスのイノベーションが持続可能な社会を創る」を信念に、企業や業界の枠組みを越え、標準化やSDGsにつながる「共創」の取り組みを発展させられるよう日々、奔走中。

SCMとの出会い

ー かなり核心に迫った内容を前回の記事でお伺いしてしまいましたが(笑)、秋葉さんがそもそも物流ど真ん中に入ってこられたのはどういう経緯なんでしょうか。

そうですね、気づいたらなぜ物流ど真ん中でもがいているかというと…社会人になった直後は、製鉄所の工場で使われるような制御用のコンピュータを開発する部署の配属で、そういう大規模現場でのソフトウェア開発やエンジニアリングの経験を活かした仕事をたくさんやっていたんですね。そんな中、半導体ブームがやってきて、半導体工場の制御システムの仕事を手掛けるようになりました。当時、半導体工場は至る所にあったのですが、その多くは自動化されていて、クリーンルームの中に沢山の製造装置が並び、その間を自動搬送するような仕組みになっていました。今思えばそれも物流だったなと思います。

半導体ブームが去り、その次にアメリカに次の商売のネタを探しに行った経営企画部が持ち帰ってきたのがSCM(サプライチェーンマネジメント)だったのです。当時は、SCMとはなんぞや、という状況で、学ぼうと思って必死に本を探して、やっと1冊見つけられたような時代でした。やっとの思いで手に入れた本を読んでみると、当時の日本で「需給調整」と言われていたものの、もう少し広範囲の概念がSCMだと理解したんですね。そこで、「これはニーズがある」と思い、本格的に学ぶべく同僚と二人でアメリカに留学することになりました。

ー 現代はなんでもスマホで調べることができますが、当時はなかなかそうもいかなかった、ということですね。アメリカでの留学生活はどうでしたか。

楽しい留学生活を想像していたのですが、実際は真逆で、ホテルへ着くなり「資格を取るまで帰ってこなくていい」と…。毎日毎日、予習復習に明け暮れて、毎週のテストで70点を取り続けて、やっとの思いで、SCMパッケージの導入コンサルタントの資格を得て、同僚とともに日本で最初の有資格者として帰国しました。帰国すると、ちょうど日本の名だたる飲料メーカーや食品メーカーから、需給調整、需要予測の精度向上や生産計画の精緻化というテーマの仕事を沢山いただけたのです。経営企画部に先見の明があったということですね(笑)

私がその中で担当していたのは、需要予測と生産計画でした。ですので、どちらかというと物流現場側ではなくて、本社側で数字を分析し指示を現場に飛ばすような仕事をしていました。現場は指示通りやってくれて当たり前だよね、という立場でした。しかし、なかなかそうはいかないと気づかされる出来事がいくつかありました。一つは、とある食品メーカーさんが、初めて自動倉庫をつくるという案件で、そのシステム開発がうまくいっておらず、「秋葉君、3日間だけヘルプに行ってくれ」ということで、現場に乗り込んだところ、それから3ヶ月間家に帰れなかったという案件です。そこで初めて本社から指示したことがどういうふうに物流現場で行われているのかを知りました。

毎日、昼に現場で課題を抽出して、夜にシステムを作り直して、ということをやっている中で、データ分析をして見てきた現場と実際の現場は必ずしも一致しないということを学んだのです。

ー 3か月家に帰れなかったんですか…。指示する立場と現場ではかなりのギャップがあったということですね。他に物流現場で難しいと感じた出来事はありましたか。

もう一つ、遺伝的アルゴリズムで配車計画を作成するという案件にも関わりました。現在のようなディープラーニングのレベルではなくて、今のスマホよりも小さいコンピュータパワーで処理しており、一晩に一回しか答えが出せないようなものだったので、配車マンの持っているノウハウを遺伝的アルゴリズムで実装することはできないという結論に至ったんですね。これも物流現場の難しさを感じた出来事でした。

ー 様々な困難を乗り越えて来られたんですね…。その後はどのように物流業界でご活躍されたのでしょうか。

その後事情があり、会社を離れることになりました。ヘッドハンティング会社から色々な会社を紹介してもらって色々な人とお会いしたのですが、面白い人にはなかなか巡り逢いませんでした。そんな中、今はもう在籍していないフレームワークスの創業社長がずば抜けて面白かったんです。面接の時間が1時間あって、私のレジュメが印刷して置いてあったのですが、それには全く触れずに、自分たちは物流に対してどういう貢献をしてきて、もっとこれから先こういうことがしたい、それができると、物流業界、ひいては世の中にこんなインパクトを与えられるんだという話を、55分間続けられたんですよね。その後、やっと私のことを聞かれるかなと思ったら、「秋葉君、名古屋から静岡までの新幹線定期代を出すから、おいでよ」と。結局私のことはなにも聞かれず、とてつもない人でした。

話の中身だけではなくエネルギーがすごくて、こういう人と一緒に仕事をしてみたいと思いましたし、自分の経験が活かせるとも思ったので、それでフレームワークスに入ることにしました。その時、工場、メーカーの本社の仕組みをやってきた自分が、本当に物流ど真ん中のコンサルティングや、システム開発という領域で活躍できるのかという不安はありました。でも逆に物流ど真ん中にずっといた人が経験していないことを自分は知っている。だとしたら、自分の経験してきたことを、物流ど真ん中でずっと経験してきた人と一緒になって考えたら、新しい答えが見つかるかもしれない。そういうことができたとしたら、自分の人生、仕事人としての時間の使い方として、有意義だと思ったんですね。

ー そうですね。特に物流業界って働いている方の年齢が比較的高齢なので、物流業界の元来の常識に固執してしまうことって多いと思うんです。その中で新しい考えを持った人が物流業界を革新する、というのは業界にとってもとても良い傾向だと思います。

ずっと同じことだけをやっていたら、それを極めることはできるかもしれないけど、ちょっと隣の人たちと一緒に仕事をすることで新しい価値を創れると思ったのです。未だにその価値が創れているのかはわからないですが、創り出したいと思ってずっと活動しているという感じです。

重要なのはミライを考えること

ー 物流業界ど真ん中で活躍されている秋葉さんから見て、これから物流業界が直面する課題とはなんだと思いますか?

本当に課題なのか、ということはたくさんありますね。人が足りないとはよく言いますが、それは物流業界に限った話ではないと思います。ですので、漠然と人が足りないと言っていること自体が問題かもしれません。業界自体を「そこで働きたい」ではなく「そこに関わりたい」と思ってもらえるようにできるかどうかが重要だと思っています。

ー 物流業界自体を魅力付けしていく、というのは大きな課題だと思います。また、物流業界の展望についてのお考えをお聞かせください。

「物流の未来はどうなりますか」とよく聞かれるのですが、その質問をされる時点で物流のことを理解しようとしていないように感じます。というのは、物流自体が目的になることはなくて、なにか目的があってそれを支えるために物流があるのですから。とすれば、その「目的」がどうなっていくかの方が大事で、それに対して物流側がどう準備をしていくかということかなと思います。だから、物流がどう変わりますか、は先にはこないと思っています。

物流に携わる人たちは、ついついお客様である荷主の動きを追いかけてしまいがちなのですが、それよりも大切なのはその先にいる消費者の動きをみて、おそらくこうなるだろう、と準備していくことだと思っています。更に言うと、いま物流業務に携わっている人たちはすでにめちゃくちゃ頑張っているし、彼らがいないと私たちの生活がままならなくなってしまいます。だから、その人たちではなくて、まわりにいる人達が、もうちょっと先にこういうことが起こるのでは、と一緒になって考えないといけないと思っています。だから関わる人たちをもっと増やしていかないといけないし、技術の進化でどう変わるのか分かる人が一緒に考えないといけないと思っています。

ー なるほど。若い我々が活躍できる可能性がありそうですね。

その通りで、一番典型的なのはスマホ。若いみなさんは、こういう言葉があるか分かりませんが、スマホネイティブ世代ですよね。スマホネイティブ世代と、人生において最近になってスマホを持つようになった世代というのは、消費行動がやっぱり違うのです。将来、スマホネイティブ世代が多数を占めるようになったときにどういう世の中になっていくかは、私たちの世代にはわからないが、スマホネイティブ世代ならわかるという訳です。ですので、スマホネイティブ世代に物流に関わっていただくことが非常に大切で、先手を打って物流の課題を解決していけるはずだと信じています。そういう意味で、今の若い人の力を物流業界はものすごく必要としています。

業界の人と議論する際に、高度物流人材という言葉がよく使われるのですが、高度かどうかということよりも、いろんな知識を持った人が一緒になって考えたら、新しいことが生まれるってことなんじゃないかな、と思っているし、新しいアイデアが生まれる環境を作ることのほうが大事だと思っています。

ー そうですね。業界にとって現状維持って良くないことだと私は思っていて、新しい考えを取り入れていくことが進化に繋がるのかなと。

同じ文脈で、日本にはロジスティクスを学ぶ大学がない、とよく言われており、たしかにそうなんですが、ロジスティクスを深く知る人材を輩出するだけではだめだと思っていて、ロボットが好き、データ分析が好き、数学が好き・・・と色々な人の得意分野がある中で、それらを物流に活かせる状況を作ることが重要だと思っています。そういう意味で、長年ずっと物流業界で働いていて凝り固まった考え方の人たちだけではなく、若い人たちが関わることが大事だと思います。冒頭紹介していただいた本も、そういう思いを持って書いたもので、物流ど真ん中の人たちはもう十分頑張っているし、一生懸命考えている、だけど、それだけでは答えが出せない、だから、周りの人たちへのメッセージという意味でこういう本を出したのです。

先程も少し触れましたが、製鉄所では構内物流、大きなビルでは館内物流と言ったりしますが、ものがある所には必ず物流が存在しています。ただ、それを「物流」と捉えていないだけなんですよね。自分たちの生活の中にも、切り取ってみると「物流」というものはたくさんあります。そういうことに気づいてもらうだけでも十分だと思います。

これからの担い手にメッセージ

ー ありがとうございました。最後に秋葉さんの今後の展望や成し遂げたいことを教えてください。

引退したら毎日ゴルフしたいという話は置いておいて(笑)、成し遂げられるかはわからないですが、バリバリ現役であと数年~10年くらい働かせてもらえるとして、お答えします。ある時、「自分の経験を人に伝えたいです」とポロッと言ったことがあって、それをきっかけに論文を書くことになり、そこからJILS(日本ロジスティクスシステム協会)で講義をさせていただいたり、大学で教鞭を取ったりする機会を頂いたんですよね。あの時なぜそういうことを呟いたのかは定かではないのですが、今思えば、学校出てから物流一筋の人には物流の知識ではかなわないけれど、隣で仕事をしていたからこそ、システム側で色々な業界の色々な会社の色々なセンターを見聞きしてきた私たちだからこそ、見えるものがあるのも事実で、一緒に考える機会があったらもっとよくなるのにな、と思ったことが、「人に伝えたい」という言葉として発せられたのだと思います。

最初は、業界の人たちに向けて伝えたい、から始まったのですが、もちろん今働いている人たちも重要だと思っていますが、これから社会にでてくる人たちに物流に関わることの楽しさや、自分たちの生活に価値があると感じてもらうことが大事だと思っています。そういうわけで、物流、ロジスティクス、サプライチェーンの楽しさや、世の中に対する影響度合いを分かってくれる人を増やしたいと思っており、そういう発信を継続してやっていきたいと思っています。

ー 物流業界のこれからの担い手にメッセージをお願いします。

直接的な担い手と、関わる人たちとに整理して話します。まず、担い手の人たちにとっては、こんなチャンスはないと思います。至る所で人がいないと言われており、3K(きつい・汚い・危険)のイメージを変えなければいけないとみんなが躍起になっている状況なので、業界全体としても働きやすい方向にしか絶対いかないでしょうし、そこに飛び込んだら活躍することしかあり得ない、またとないチャンスだと思います。関わる人という意味では、ロボット、データ分析、コンピュータシステムなど、いろんな得意分野を活かす一つの場として、物流というフィールドを捉えてほしいと思っています。自分たちの技術を物流領域で使ったらめちゃめちゃ変えられるぞ、という気持ちでぜひ飛び込んできてもらいたいですね。起業して出資を募りやすい情勢だとも思います。

(インタビュアー:小早川)