概要

経験ゼロでやれる自信もなく始めた物流が今、楽しい理由 #01 【vol.5 深井雅裕氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、日清食品ホールディングスおよび日清食品の物流とウェルビーイングを牽引する深井雅裕​​​​​​さんにインタビューをしていきます。#01では今、物流が楽しいワケについてお聞きしていきたいと思います。

▼ 深井雅裕氏

日清食品株式会社取締役Well-being推進部長 兼 サプライチェーン企画部 管掌 、日清食品ホールディングス株式会社サプライチェーン構造改革プロジェクト部長 兼 DX推進部 部長を兼任。1989年に法政大学を卒業、同年入社。低温事業部営業課、チルド食品事業部企画部、営業本部を経てタイ日清現地法人社長に就任。2015年に帰国し、日清食品株式会社にて営業戦略部を経て現職に。ウェルビーイングを課題にサプライチェーンの構造改革や組織改革に尽力。

「物流クライシス」を契機にキャリアチェンジ

まずは具体的な仕事内容を教えていただけますか。

私はホールディングスの立場と事業会社日清食品の立場があります。ホールディングスでは、サプライチェーンの戦略立案をやっています。ここで携わっているのは、サプライチェーンつまり物流と生産と資材調達に対する長期的な戦略の立案です。

事業会社の方では、サプライチェーン企画部とWell-being推進部の両方をやっています。サプライチェーン企画部は、調達物流と製品物流のデリバリー関係を実際にアレンジする作業と、それを管理する部署。

Well-being推進部は実務をやっているメンバーが、どんなふうに無駄な仕事を切り捨てて業務時間の短縮ができるか、人材育成や組織開発を含めた戦略を立てて、組織風土の改革をしています。評価や報酬に関わる人事制度も含めてやっているというのが私の仕事の全体像です。

ー 以前は営業戦略部にいらっしゃったとお聞きしています。物流に携わることになったきっかけはありますか。

営業戦略部からこの部署に来たのは、2019年の7月です。当時営業戦略部で営業全体の戦略を見ていた2019年の4月、あるエリアでモノが運べなくなる出来事がありました。物流会社様との取引関係上、うちの荷物を運べなくなったのが理由です。

営業社員総出でそのエリアに張り付いて、実際にデリバリーのサポートをしながら、正常に戻すまで3ヶ月ぐらいかかりました。「物流クライシス」を実際に体感したというのがひとつです。

今まで物流は「運べるのが当たり前」だったじゃないですか。そうじゃなくて「物流も戦略的に考えないとまずい」と見方が変わり、物流の見直しが始まりました。すると、中期経営計画上に試算されていたデリバリー物流費よりもだいぶ費用がかかりそうだと気付き「そうなると事業構造が変わるよね」ということで部署を立ち上げることになりました。

「”戦略”部長なのだから、物流”戦略”も深井さんにみてほしい。物流も戦略だ」と言われたときは、正直なところ嫌でしたね…。この年で、知見もなければ経験もなくて、しんどいじゃないですか。「えっ私、営業戦略なのですが……」と、1・2ヶ月粘りましたよ(笑)ただ、今は本当にこの部署が楽しくて仕方がないです。

物流が今、楽しいワケ

ー ”経験ゼロでやれる自信もなく”始めた物流がなぜ「楽しい」に変わったのでしょうか。

我々が描いてるようなワクワクする未来のサプライチェーンが本当にできるかもしれない感覚が掴めてきたんですね。

今の部署は営業戦略部時代のメンバーや財務、生産、資材からガサガサっと寄せ集めて作ったので、物流の専任だった人って実はそんなにいないんです。だから「いいんだ、俺らはルーキースマートになるんだ、勉強しようぜ」と部署のメンバーに話をするんですよ。

つまり素人だからできる新しい発想があると伝えながら、ここまでやってきたんですね。最初は周りから見れば何をしているかわからない部署だったと思うのですが、だんだん仲間が増えてきて、いろんな縦横の繋がりができました。

工場長とマーケティングのBM(ブランド・マネージャー)、営業支店長が「話すの初めてだよね」というシーンもあったりしました。そこでそれぞれの部門が顔を突き合わせて「うまくいっていない」とか「こうしたい」という思いを、腹を割って話せるようになってきて変わってきているんですよね。

社内に仲間が増えてきたっていうのがひとつ。あと大学の先生や他のメーカーの物流担当者様、行政の方とか、社外にも仲間が増えてきたのがもうひとつ。

その中で今、絵空事ではなくて、本当に今だったら描いてきたことが叶うかもしれないって、少しずつ確信に変わってきています。新しいことが生まれる瞬間に立ち会えるってあまりないじゃないですか。

昔の物流は倉庫で、ドライバーさんが必死に肉体作業で積んでいるイメージでしたが、そんな古いやり方はどんどん自動化されていくはず。どのように一番生産性の高いサプライチェーンを作るか、今後を考えると私は今、正直「楽しい」という気持ちしかありません。根本的にサプライチェーンの考え方ややり方が変わる入り口に来ているので、歴史に名前が残るんじゃないかと話しているぐらいです。

競争関係も乗り越える変革期

ー なるほど、 コミュニケーションが密になった今だからこそ、実現できるイメージが見えてきたのですね。変革のタイミングと感じられた時期はありましたか

まだまだハードルが高いのですが、働き方関連法案のおかげで変わらなきゃならない期限が迫っています。企業としては、為替の影響によってもとんでもないインパクトがあるわけですよね。なのでやっぱり事業を継続するため、収益性を維持するため、企業として社会に貢献し続けるためには、構造を今変えないといけないと感じています。

つまりある意味では、追い詰められている今の環境が良いきっかけにはなっています。

最初の頃は「そんなのできない」という人が多かったんですよね。それが今はもう「やらなきゃいけない」を超えて「やろうよ」と皆さんいっています。実際、そういう打ち合わせや会合が増えました。様々な食品メーカー様や即席麺業界、業界団体と個別に話をしています。

本来競争関係もあるわけですが、それを乗り越えようとみんながいい始めていて、実際打ち合わせができているのは、この3年の大きな変化です。3年前はみんな「やらなきゃね、やろうね」という感じでした。今はいよいよ「具体的にじゃあ何しようか」というステージにきています。

ー 今後やりたいのはどんな仕事ですか。

物流をどうこうしようとか、営業として売り上げをあげるとか、そのあたりはもう誰かに任せればいいと思っていて、何かしら未来の日清に残したい気持ちがあります。環境が変わって、人々の考え方や意識が変わってきていますので、それに合わせて会社や我々の働き方も変えなきゃいけない。その改革って終わらないと思うんです。

現部署を作った2019年当時、映画のアベンジャーズが流行っていたんですけれども、全員でキックオフのミーティングしたときに、「いいか、俺たちは日清のアベンジャーズになろう。未来の後輩から、あのときあの人たちがいてくれてよかったっていわれるようになろう」って言ったことあるんですよ。アベンジャーズの写真をドンと入れて。全員苦笑していましたけど(笑)

今の部署は混成チームで財務、情報企画、営業、海外といろんなキャリア経験がある人が集まっているんですよね。いわばダイバーシティです。それぞれの強みを生かして改革できるのは、一番楽しいと思っています。

そういうチームを作るのが、今後私がやりたいことです。やっぱり組織って人じゃないですか。会社って最後は人に行き着くんですよ。どれだけみんながワクワクしながら、自分のやりたいことを会社のビジョンに乗っけて自己実現できるか。そんな会社や組織の風土を作ることに、この先も会社が「いいよ」という限り、関わっていきたいと思います。

(インタビュアー:横畠)

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