概要
自分の価値を高めるキャリアプラン #03 【vol.3 小野塚征志氏】
ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。#03では小野塚さんの今後の展望、またキャリア形成についての考え方や意識するべきことはなにか、などをお聞きしました。
▼ 小野塚征志氏
ローランド・ベルガー パートナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なプロジェクト経験を有する。内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長などを歴任。近著に『DXビジネスモデル』、『ロジスティクス4.0』。
重要なのは特化すること
ー 前回の記事では小野塚さんの戦略的な生き方について詳しくお伺いしました。教えていただいた考え方って、若手のキャリアを考える上で活かせる部分があると思いますが、いかがでしょうか。
キャリア形成に関して社内の若手コンサルタントによくいうことがありまして。「ローランド・ベルガーって戦略系のコンサル会社で、お客様にどういう経営判断をしたらいいかっていうことを、プロとしてご提案してご支援するのが本業ですよね。だったら、あなたのキャリアプランも戦略的に考えていきましょうと。」
例えば、企業経営を見るとき基礎中の基礎である分析軸が【3C※】です。軸に当てはめて、お客様の戦略を考えるというのはオーソドックス中のオーソドックスですが、キャリアも実はそうです。
※3C:「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」
すなわち、まず市場を見ることです。市場を見たときに、成長性が無い市場を攻めたってしょうがないですよね。
もちろん、どうしても好きだったらいいのですが、そうじゃない限り普通に考えたら右肩上がりの市場、もしくはなくならない市場を狙った方がいいじゃないですか。今後イノベーションが起きそうだとか、変化が起きそうなところの方がよりチャレンジができるはずですよね。
ここまではみんな考えるところかなと思います。しかし実は残りのライバルと自分を見ることが重要で、そのポイントは「競争戦略」です。
具体的に話を挙げるとすると、例えばアイドルグループを結成しますと。アイドルグループで48人とか46人とかいたりすると、全員が全員、歌も踊りも完璧で、ルックスも素晴らしかったらいいんですが、そんなことってないじゃないですか。そう考えたときに何かで差別化しないと絶対生き残れないですよね。
そうすると「いや私はちょっと歌が駄目だからドラマで頑張る」「トークで頑張る」「踊りで頑張る」など、みんな一生懸命差別化しようとします。キャリアもやはりそれと同じで、皆さんのキャリアも競争戦略の視点から考えましょうということです。
ー 競争戦略の視点から考えていくことがキャリア形成においても重要なんですね。
IT市場で考えた時も同じで、「時代はDXだからデジタルでしょう」というのも、もちろんそうなんですが、みんなそこを狙うと、どう考えたってレッドオーシャンになります。それでも頑張るでもいいんですが、その中でどう差別化するかが大事です。
デジタルの中でも「ロジスティックスに特化する」でもいいですし「ヘルスケアに特化する」でもいいです。つまりは何かに特化して差別化しないと勝つことは大変ですよね。
大谷翔平みたいに何でもできる人だったらいいですが、そんな人はなかなかいません。普通はもう打つことを頑張るしかないとか走ることを頑張るしかないっていうことになりますよね。
そのときにぜひ相対評価してください。私はこれが得意だって思っていても、それが得意な人がごまんといるところで戦ったってしんどいわけですよ。私はこれあんまり得意じゃないと思っていたかもしれないけど、でも、もっと下手な人しかいなかったらそこで頑張った方がいいかもしれません。
自分の得意なところ、不得意なところをぜひ相対評価してください。
もちろん「好きこそものの上手なれ」なので嫌いなことをやれとは言いません。ただ好きなものの中で相対的に勝ちやすいものって何でしょう、あるいは今後も増えそうなもの、変化が起きそうなものって何でしょうって○×をつけていくと、ある程度キャリアプランは見えてきています。改めてそういうのを考えると、都度正しい選択肢が見えてくるんじゃないかなというふうに思います。
ー 私は入社して一年目なのですが、そうやって自分自身を商品と捉えて、マーケットから求められている動きをしたいと思いました。
選択基準は価値の最大化
ー 小野塚さんの今後の展望を教えてください。
これは難しい質問ですね。戦略を考えるときって目指す姿があって、それをどう実現するかを考えましょう、というのが王道なんです。しかし、そんなに明確に自分の目指す姿があるかっていうと、実はそんなことなくてですね、それがあまり人に言えないところです。
ただ、どうすれば自分の価値を最大化できるかってことは考えてはいます。例えば、私は今45歳で、仮に60歳までしか働かないとします。すると、あと15年しか働けないわけです。
別に働きたいわけじゃないので、ハッピーリタイアはウェルカムなのですが、残りの15年でどうしたいかって考えたときに、15年間、毎年「去年より価値のある人間になった」と言いたいですよね。15年目に別に給料がどうなっているかは別にして、社会的な必要度はぜひ上がっていたいじゃないですか、今に比べて少しでも。
そういうのを考えたときに、ローランド・ベルガーという会社に居続けるのがいいのか、違うところに行った方がいいのかっていうのも当然考えます。
ー なるほど…現在、小野塚さんがローランド・ベルガーに居るのは、自分の価値を最大化できると考えているからなのでしょうか。
その通りです。例えば、少しだけ宣伝させていただくのですが、ローランド・ベルガーという会社のいいところは、極めて自由度が高いことです。
自分の本を出す時って普通の会社はチェックが入って、そもそも本を出していいかっていうところから承認を取らなければなりません。私は、国の委員をやらせていただいていたりして、これも勝手にやっていたりしたら普通は怒られちゃいます。
ということなのですが、ローランド・ベルガーは一定のポジション以上だと、その責任の範囲において自分で判断できます。もちろん、会社にマイナスにならないこと、というのが大前提ですが。
競合さんに声をかけていただいて、お話を聞いたこともあるのですが、ここまでの自由度のあるところはありませんでした。
愛社精神が高いとか低いとかではなく、「本を書く」「国の委員になる」「YouTubeに出る」「取材を受ける」などそういうことを自由にできる状況にしておいた方が、自分の価値を高めやすいだろうと思いました。
「そろそろ独立するんじゃないですか」と聞かれることもあるのですが、私が独立すると小さな会社を経営することになり、国の委員などを務めるのが難しくなるので、現段階では独立は考えていません。お役所の人から見ると、その人個人がどれだけ評判が高くても、小さい会社には依頼しにくいんです。
どういう職業、職種、会社が自分にとって一番価値を高めやすいのかを考え、未来へのオプションが少しでも多い方向を引き続き選んでいこうというのが、現時点での基本的な戦略です。
先を見据えて選択していく
ー そのような時に短期的メリットか長期的メリットか2択で迷ったら、小野塚さんは最終的な判断基準をどこに置きますか。
その選択肢のどちらがよいか、ということを考えることも大事なのですが、特に若い方はその次のオプションを考えた方がいいです。
目先のメリットを優先して転職した結果、その次のオプションが減るような選択肢はやめた方がいい。もちろん、どうしてもその仕事をやりたい、ということであれば問題ないですが。
例えば、若いうちにフリーコンサルになられる方って結構いらっしゃいます。フリーコンサルになった方は、会社に管理費を取られないので目先の給料は確実に上がります。
ただフリーコンサルになった後にどうするんですかってことなんですよね。もちろん著名な方なら全然いいんですが、そうじゃないそうじゃない方だとそこから先って実はオプションが減ってしまいます。
最終的に別に給料が高いことがいいかどうかっていうのは横に置いといたとして、60歳まで働きましたって言ったときに、どっちの方が最後、頂点に近づきますかと。
最初のうちは給料が低くて、後で上げていくってやり方もありますし、そんな日本的なアプローチを通らずに最初から頑張るというやり方もあります。ただ、フリーになったらそういうリスクがありますと、それでもやりたいですかということです。
何が言いたいかというと、目先のオプションではなくてその次、あるいはその次のオプション。これを見据えてきちんと今のオプションを選ぶことが大事だと思います。それこそが「戦略的に生きる」ということです。
(インタビュアー:小早川)
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