概要

戦略的に生きるための選択とは #02 【vol.3 小野塚征志氏】

ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。#02では小野塚さんの今までの経歴、そしてなぜ様々な業界がある中で「物流コンサルタント」を選んだのかをお聞きしていきます。

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正しい「DX」を学ぶ #01

▼ 小野塚征志氏

ローランド・ベルガー パートナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なプロジェクト経験を有する。内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長などを歴任。近著に『DXビジネスモデル』、『ロジスティクス4.0』。

小野塚さんの経歴について教えていただけますでしょうか。

大学院の話をすると、大学院では物流を専攻しておらず、行政改革を専攻していました。行政改革で一番やりたかったことは小さな政府の実現です。小さな政府とは、政府による経済活動への介入を少なくすることで、市場原理による競争加速、経済成長を図る概念を指します。

日本の社会は小さな政府が実現されていない、と感じたことが取り組みたかった理由です。というのも、公組織・国営企業が肥大化しており、経済に対しての影響力がとても大きいんですね。そのため、構造改革を行い、民間企業の健全な競争環境を促すことで、日本の成長に関わりたいと思いました。

そういった考えを持っていたこともあり大学院を修了の時には、二つやりたい職業があったんですね。

一つ目はシンクタンクです。シンクタンクとは要するに研究機関のことで、政策立案・提言を行う立場上、行政とお付き合いがある場合が多いです。ですので、行政改革をサポートできると思いました。

二つ目は、今、私が職業にしているような民間企業向けのコンサルタントです。構造改革はもちろん国主導でも行われていますが、民間企業の方がより多くのノウハウが蓄積されていると思ったからです。

幸いにも両方の企業から内定を頂きました。民間企業か、シンクタンクか、どちらにしようか選択に悩みましたが、その時にシンクタンクの人に「中途だとシンクタンクは入りにくいよ」と言われたわけです。

当時の大手シンクタンクは金融機関系が多く、中途採用でなく新卒採用が中心でしたので、「新卒での就職先」はシンクタンクを選びました。シンクタンクでは、有り難いことに行政向けの仕事を任せていただき、経済産業省や厚生労働省など省庁さんを相手に仕事を行いました。その後シンクタンクを辞めて、今の会社で物流コンサルタントとして働き、早15年となっております。

そこからなぜ様々な業種があった中で、物流のコンサルタントを選んだのでしょうか。

半分は偶然、半分は好きでやっている。という感じです。

先に偶然の方を申し上げますと、私は2007年にコンサル会社であるローランド・ベルガーに入ってるんですね。コンサル業には、戦略系以外にも、例えば会計系とか総合系とかIT系とか人事系とか、いろいろあります。総合系は何でもやりますが、それ以外はそれぞれ専門分野に特化しています。

弊社はその中でも戦略系というカテゴリーに属するコンサル会社なのですが、実際に戦略系って何に特化しているかというと、企業が大きな意思決定をするときにサポートしますというのが一番のメインです。(例:経営計画や長期ビジョンの策定など)

まさにその経営の意思決定をするといった時って、いろんな担当がいるんですね。自動車メーカー、機械メーカー、ヘルスケア、化学、流通小売などでそれぞれ担当している人がいます。

その中で私はなぜ物流なのかというと、入社直後にリーマンショックというのがあったのか最初のきっかけかなと思います。軒並み日本の会社がひどい状況になって、いろんな会社がかなりきついシチュエーションになりました。

戦略系のコンサル会社って、年によってご時世ネタっていうのがあり、今だったら、まさにDXはご時世ネタですね。では当時の2008年、2009年のご時世ネタってなんだったかと言うと、リストラだったんです。

気づいた思わぬ落とし穴

なるほど…リーマンショックやリストラが起こり、コンサルタントとしてサポートする内容も変化したということでしょうか。

その通りです。リーマンショックがあったので、当社も別にリストラばかりやったわけじゃないんですが、私は偶然、リストラの仕事をかなりやりました。いわゆる構造改革です。

止血するためにはとにかくコストを下げることが必要です。工場の人員を【3直※】から2直にしたりとか、一部の工場を閉鎖したりとか。しかし、いろいろと取り組んだ中で、コスト削減として一番効果が出たのは物流費の削減でした。驚くことに2割も削減できたんですよね。
※3直:24時間を3つの時間帯に分けて、3つのグループで交代する勤務体制のこと

物流費が10億円だったら8億円になるということです。理由は、メーカーとして物流のコストには目が行き届いていない、管理がやや大雑把になっていたからなんですね。

例えばメーカーの場合、工場の中で働いている人の人件費、調達費、燃料費、設備投資など、大部分を占める費用はみんなすごくチェックします。一番生産管理は厳しくて、コスト削減の焦点になります。

ですが、メーカーの場合5〜6%程度の割合になる物流コストに目が行き届いていない会社が未だに多いと感じます。メーカー以外の業種でも、本業に密接にかかわるコストは管理しているが、それ以外のコストがおざなりになっている場合が多いんですね。

なるほど…一生懸命頑張っていても意外と見えていない無駄なコストがあったということですね。

そうです。リストラのプロジェクトでコスト構造改革のご支援をする中で、ほとんどが物流改革になるんですね。

そういった状況で、物流の知識が増え、特に【荷主※】サイドから見た物流管理の経験がたまりました。ご時世的にその後も物流会社さんのご支援をする機会が多く、経験値が半ば自動的に蓄積されたのが物流を選んだ理由の一つです。
※荷主:物流業務の依頼主のこと。貨物の所有者。

結果論じゃなくて、ポジティブな理由に関して言うと、コンサルタントとして戦略的に生きようと考えたときに、物流は最適であった。これがポジティブな理由です。

戦略的に生きるために

なぜコンサルタントとして戦略的に生きようと考えた時に物流が最適な選択肢と感じたのかもう少し詳しく教えていただけますでしょうか。

ローランド・ベルガーという会社は戦略系コンサルの中では珍しいヨーロッパ発で、世界で見ても、日本で見ても後発なんですね。先発の会社に比べて20年ぐらい後になってできた会社なので、既にノウハウが蓄積されてしまっている領域で価値を提供していくのは厳しいです。

例えば、先発が多い米国系のファーム(実は戦略系のファームってほとんど全て米国系ですけど)はITを武器にしています。GAFAみたいな世界ってアメリカが圧倒的に強いじゃないですか。他にも金融業界、ヘルスケア業界を合わせた三大業界に関しては、既に沢山のコンサル企業が参加されていて、大きな企業もある。

では我々がどの業界に対しての価値提供を強みにしているかというと、例えば製造業、自動車産業が挙げられます。ヨーロッパと日本の両方が強い業界です。専門として頑張りたい業界としても、王道になっていますね。

ですので、私がローランドベルガーに入社したタイミングで既に、製造業、自動車産業に強みを持つ方が沢山いました。だから、私が今から製造業で一生懸命頑張ったとして、既に活躍されているスペシャリストには敵わない。2番手3番手にしかなれない、そう強く感じました。

そういう競争環境を踏まえた際、世界的に見て、ヨーロッパ発のローランド・ベルガーが戦いやすくて、なおかつ社内で第一人者になりやすい業界はなんだろうって考えたんですよ。そのうちの一つが物流だったんですね、物流ってアメリカのコンサル会社は積極的に狙わない傾向があります。

ー アメリカのコンサル会社は積極的に物流業界を狙わないんですね…!

世の中には「文明商品」と「文化商品」というのがあります。

文明商品は、具体的にテレビやスマホのことです。世界津々浦々、高機能であれば売れます。高機能、低価格のサムスン製のテレビが世界中で販売されていますが、わかりやすい文明商品の例といえます。

対して、文化商品は食べ物や服などのことです。国によって強い会社が違うことが特徴であるといえます。スーパーの食品コーナーも国によって違いますよね。最近はH&Mとかユニクロとか世界展開に注力している会社もありますが、元々は地域に根ざすことが強い業界なんですよ。

物流は文化商品の傾向が強いです。物流って「世界中どこでも、やってることは同じでしょ」って思われがちなんですが、国によって違いがあり、特に日本というのはかなり特殊です。国によって個性やカラーが強い。そういう業界の方が後発組として価値を提供しやすいです。

アメリカのスーパーファームは大きな仕事を取るために、グローバルカンパニーを狙います。

ローランド・ベルガーは後発ですので、ローカルな産業で価値を提供できるという点で物流という選択肢を取り、会社としても個人としても積極的に物流案件を狙う方向に舵を取りました。

また、2015年以降に日本で物流改革の機運が高まり、ロジテックのベンチャーが急激に増え始めました。そういった社会的な追い風が奏功し、物流を軸に価値提供していくことに方向転換出来ました。

(インタビュアー:小早川)

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