概要

デジタルはあくまで道具でしかない、DXの根幹とは #01 【vol.3 小野塚征志氏】

ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、物流経営支援のエキスパートであり、精力的に情報発信活動をされているローランドベルガー・パートナーの小野塚さんにインタビューをしていきます。#01では話題のDXについてお聞きしていきたいと思います。

▼ 小野塚征志氏

ローランド・ベルガー パートナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なプロジェクト経験を有する。内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長などを歴任。近著に『DXビジネスモデル』、『ロジスティクス4.0』。

まず、今回出版された書籍DXビジネスモデルテーマに「 DX 」をなぜ選んだかを教えてください。

ポイントは二つあります。ご承知の通り、最近「物流DX」が話題になっています。総合物流施策大綱という政府の指針が去年の6月に閣議決定していますが、私は素案を作る有識者会議のメンバーでした。そのとき、3つの大きな方向性を掲げることになり、筆頭が物流DXでした。最終的には閣議決定を去年6月に実施、様々な分野で予算が組まれ、規制改革の議論が進みつつあります。

一つ目の理由は、国として物流ビジネスを進化させることに対し、積極的に推進している時期であり、社会全体でDXを打ち出していくことが重要だと考えていた点が、DXに関する本を書いた経緯になります。

二つ目の理由は、DXが誤解されている、バズワードになってしまっているので、正しい理解を伝えたいと思った、ということです。

コンサルティングファームが「DXを導入しましょう」とか、「DXツールを導入すれば一躍生産性が10倍になります」など打ち出していることも多いかと思うのですが、これは少し怪しいです。何を言っているかというと、DXではなく「デジタル技術を導入しましょう」や「デジタルツールを入れましょう」で済みますよね。デジタルという言葉に置き換わることができるのであれば、それはデジタル化なのです。DXのXがいらなくて、Dだけで済む話になってしまいます。Xって付くからには、デジタルトランスフォーメーションなのですよね。ではなぜ、DだけではダメでXが付かなきゃいけないかというと、デジタル化だけでは競争優位にならないからです。

例えば、ある会社が「最先端のオペレーションシステム」を導入し、生産性が10倍になったとしましょう。確かに、一時的には競争力を高められますが、それほど素晴らしいオペレーションシステムであれば競合他社も導入するはずです。そうなれば、どの会社も生産性が10倍になり、差がなくなります。つまり、デジタル化をしただけでは差別的優位性を構築できないということです。みんな同じことをしてしまうからです。

Dだけではなく、Xにも取り組み、それによってビジネスモデルを変え、儲け方を変えるとか、新しい価値を創造するとか、今までにはない良い機能を提供する、ということができて初めて差別化になります。

残念ながら、先ほど最初に申し上げた通りDX導入とか、DXツールとかですね、そういうキーワードってすごく多いですけど、それだといつまで経ってもみんなデジタル化すればいいんでしょ、デジタルツールを入れればいいんでしょうとなってしまう。それでもし変化が終わってしまったら、日本の物流業界、ひいてはそれ以外の業界も永久不滅に国際競争力が高まらないです。何故かというと、デジタルツールは日本だけじゃなくて、中国の会社もアメリカの会社もヨーロッパの会社も入れるわけですから。それゆえに、日本の国際競争力を高めるためには、Xが必要だと。

しかし現在はそれがあまり伝わってない気がしています。誤解されたままですと、かつてのIT革命のときみたいに、アメリカが1人勝ちして日本だけで遅れてしまうみたいになったらよろしくないですよね。そして、DXのXがどういうことなのかを『 DXビジネスモデル 』に書いています。この本では事例をたくさん使っています。というのも、事例を並べると、「こういうことがトランスフォーメーションなんだ」と具体的に理解できるからです。

電子化をしよう、RPAを入れよう、ペーパーレスにしようといった施策はビフォーアフターが分かりやすいです。ですが、トランスフォーメーションしてくださいって言われたら何をすればいいですか、となります。儲け方を変えてください、価値を大きくしてください、と述べても具体的なイメージをできる人は少ないでしょう。

私もデジタルツールを導入して効率化することだけではDXと言えないと思っています。単なるツール導入ではなくて、その先まで変えるというか、世界観を変えるみたいなところが大事ということですね。

ゆくゆくはそれがベストだと思います。例えばこの本の中ではあまりにも当たり前すぎる例なのであえて事例としては取り上げていませんが、YouTubeは世界を変えたと思うんですよ。

最近の小学生のなりたい職業ランキングNo.1はYouTuberになりました。今まではそんな職業はありませんでした。しかし、我々はYouTubeを手に入れ、それで誰かの動画を無料で見られたり、音楽を聞けたりできるようになりました。YouTuberという有名な職業を小学生に提示できている現状は、すなわち、価値観やビジネスがトランスフォーメーションされた結果だと思います。

日本発の新しいDXビジネスが世界で使われて、これができてよかったね、新しいライフスタイルできたよ、という状況になりたくないですか。そして、そうなったときには日本が復活しているはずですよねと言いたいです。そういう気づきが一つでも二つでもこの本を読んでいただいた方にあるとすれば、ありがたいなと思います。

企業のDXとは

そもそも、DXって何かを教えていただきたいです。新卒社員などは言葉を聞いたことがない人も多いと思います。

先ほどの話に繋がりますが、まず言いたいことは、デラックスではなく、デジタルトランスフォーメーションであることです(笑)

ポイントはXです。デジタルを使ってどうやって儲け方を変えますか、あるいはもっと大きな価値を出せる会社になりましょうか、という点が大事です。例として、一番わかりやすいのは自動車メーカーですね。トヨタも日産もホンダもいい車を作って、乗り心地が良い、燃費が良いという理由でユーザーが欲しくなる、いい車を提供するのが自動車メーカーさんです。でも、MaaS(Mobility as a Service)に変わることで、自動車メーカーは車だけでなく、移動サービス全般を提供するようになるかもしれない。将来的には、タクシーよりはるかに安い価格で家の近くまで自動運転でやってくる、移動中に映画も見られる、途中で相乗りができるといったことが実現されるでしょう。

もしかしたら、電動キックボードが道路で待っていたりする未来もあるかもしれません。駅に、必要以上に早く着く必要はないじゃないですか。電車の出発時間の5分前についていれば十分ですよね。今までだったら、とにかく早く行くのが正しかったかもしれないですけど、電車の発車時刻に合わせて移動してくれた方が、ホームで待ちぼうけをするより利用者としてはいいじゃないですか。

「そういうこともひっくるめて移動を快適にするプラットフォーマーです!」というふうになったら、そっちの方が社会的により価値のあるサービスを提供していると言われるかもしれないです。

仮にそういう時代がやってきたときにトヨタは自動車だけじゃなくて、電動キックボードもコントロールし、鉄道ともデータ連携し、もちろん飛行機ともバスとも連携したりすることになります。そうなると、将来、もしかしたらトヨタは車を作ってないかもしれない。かつて、世界最大のパソコンメーカーだったIBMが、今ではパソコンを作っていないのと同じです。それぐらい企業のビジネスモデルが変わろうとしています。よくよく考えれば、ソニーが車を作るわけですよ。若い方からすると別に驚かないかもしれませんけど。

それぐらい時代が変わろうとしている中でトランスフォーメーションしましょうとなっている。デジタルというのはあくまでツールであり、より社会の人にとって価値のある、選ばれる、あるいは儲かる会社になるためにはどうしたらいいでしょうかというのがDXの根幹です。

ロボットの協働が必要な理由

トヨタさんの事例もありましたが、日本で注目されるDX事例はありますか。

その質問が一番難しかったんですよ、ダイアログさんって言わないといけないと思っておりました(笑)

ー ありがとうございます(笑)

良い会社は沢山あると思うのですよね。日本の会社も、トラックマッチングの会社であったりとか、倉庫のスペースをマッチングする会社さんとかあったりとか、それこそ何でもつかめるロボットの会社とか、いろんなソリューションがあると思っています。ただ、社名を上げずにあえて日本の特徴という点で言うと、日本の特徴って、現場力があることだと思っています。なぜならば、現場の生産性がめちゃめちゃ高いからです。

ロボットって、標準的なオペレーションであればあるほど導入しやすい、あるいは分業しているほど投入しやすいのですね。日本の現場は本当に生産性が高いので、ある日は梱包の現場が大変だからこっち手伝ってよとか、当初の予定よりも大きいものが来ちゃったんだけどなんとか詰められないか、というようなことを依頼されることが往々にしてあります。ヨーロッパやアメリカでは、そのような依頼に対して別料金を請求したり、そもそも対応しないケースも多いです。日本のように人間が何でも対応できる現場ってロボット化しにくいんですよね。

日本の現場は人によって支えられています。人とロボットが融合できるソリューションを作れば、日本発のソリューションになるんじゃないかと思ってます。

例えば、私がアドバイザーを務めているラピュタロボティクスという会社があるんですが、これはいわゆるAMRという協調型のロボットを作っています。人がロボットに指示をし、ロボットが人間に指示をすることによってピッキング作業の生産性を高めようとしているわけですが、こういうものって実は日本らしいと思っています。

すなわち、今人間がやっている作業をただロボットに置き換えるんだったら、今時点で、人間の生産性が低い国の方が流行っちゃうんですよ。

日本のように生産性が元々高い国は、ある意味ロボットが入りにくい。だから日本は遅れているっていう状況になります。人間の生産性が高い現場であればあるほどロボットの生産性も高まるというソリューションを作れば、まさに日本らしいソリューションになりますよね。

加えて、これでノウハウを築ければ、ロボット単体でやるよりも生産性が高いかもしれないですよね。相互にノウハウを蓄積できれば、初めて人とロボットが融合する領域を作れる。そうなれば、日本の方に国際競争力があるかもしれない。そういうDXを実現できると面白いんじゃないかなと思います。

ー ラピュタロボティクスに次ぐ会社が作られると良いですね。

そうですね。海外含め、AMR領域にいろんな会社が既に参入しています。海外では作業が標準化されているため、日本のロボットが多能工化すると、海外で重宝される可能性が大いにあります。

日本の強みをぜひ生かして、日本らしい価値の出し方ができる会社さんがたくさん増えてほしいと思っています。いろんなテクノロジーを持っている会社がいるので、物流テックや他の業界でもそのような企業がどんどん増えてほしいです。

(インタビュアー:小早川)

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