概要

知識と経験を糧にして、改革に挑む! #02【日本郵便株式会社 上田 貴之】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。前回に引き続き、日本郵便株式会社で郵便・物流事業統括部の担当部長を務める上田貴之さんにインタビューしました。#02では、「時代に合わせた改革」についてお話いただきました。

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▼ 日本郵便株式会社 郵便・物流事業統括部 担当部長 上田貴之氏
長崎県波佐見町生まれ。1991年に郵政省入省。郵政事業庁、日本郵政公社と郵便法人営業に携わり、特にゆうパック営業に注力。2006年には本社法人営業部へ。2007年、日本郵政株式会社へ出向。カタログ販売事業の立ち上げを行い、現在の物販事業のモデルを構築。2015年ごろからゆうパックやドローン、キャッシュレスなどを用いた郵便・物流事業を中心に、抜本的なオペレーション改革に取り組む。

「常識」からの脱却で成功を掴む

― ここまで、上田さんはどのようなご経歴で現在に至るのでしょうか。

私は1991年に郵政省に入省し、その後は郵政事業庁の営業部、日本郵政公社の法人営業部などを経て、2007年に日本郵政株式会社へと出向しました。出向後すぐ九州支店の郵便・物流営業部に配属されたのですが、当時の部長がかなりエッジの効いた方で、彼からその先の仕事人生に大きな影響を受けました。

― エッジの効いた部長も気になるところですが、まずは当時の営業部について教えてください。

当初は、まだ営業全体で「お客様に対して特約運賃を提案する」という風潮はなく、いかにして定価でお客様にご利用いただくかということに注力している時代でした。競合他社が「荷物の配達はサービスの提供である」という姿勢で取り組みを進めている中、私たちのスタンスは時代にそぐわない部分もあったと言えます。そうした背景から「私たちも一緒に変わっていかなくてはいけない」という危機感が芽生え、競合他社にシェアを渡さないようにどのような取り組みを行うか、日夜議論を重ねていました。

先述の通り、当時私たちは運賃にこだわって奮闘していたところがあり、他社が運賃を50円安くする施策を打ち出してきた場合、配送料金における物流コストが占める割合を見直し、私たちはどれほど配送料金を下げられるかを考えていました。今でこそ営業部隊は、お客様にとっての最適解を俯瞰的な視点からご提案できていますが、当時は運賃にこだわった競争しかできていなかったのが実状でした。

― そんな中、競合他社との差別化ポイントをどのように生んだのですか。

ここで登場するのが、先ほど述べた“エッジの効いた上司”です。彼が着目したのが、「物流に伴う決済」でした。今でこそ事前のカード決済やコンビニ払いは当たり前のものですが、当時は各種金融機関を介した決済では割引が適用されないこともあり、物流全体における決済関連のコストがかさんでしまっていました。

そうした状況下、上司は金融機関と協力して、決裁コストを下げることにより、トータル物流コストを下げることに成功したのです。前例のなかったことなので、非常に勇気のいる決断だったと思いますが、時代を先取りした施策だったと思います。この流れは当時ご利用いただいていたお客様から大変好評で、私自身もその上司から感銘を受けました。

― 新人時代から、まさに改革の現場に立ち会えたということですね。非常に大きな変化を間近で見ていて、どんな学びを得ましたか。

物事を俯瞰して見ることを学びました。物流というものは「ひとつの配送料だけ」「ひとつの輸送量だけ」というような単純なものだけで決まっているわけではありません。まるで水が上流から下流へと流れていくような、一貫した枠組みで構成されているという事実を目の当たりにしました。物事を俯瞰して見ることの大切さを、再認識させられる出来事でした。

インタビューの様子

荒波をプラスに変える工夫

上田さんが日本郵政株式会社に出向された2007年は、ちょうど『郵政民営化』の年でした。当時現場では、どのような取り組みをされていたのですか。

当時、私は物販担当の部署に配属されていました。今でこそ郵便局の物販は広く認知していただき、事業として成立していますが、その当時は物販事業がまだ収益化できていませんでした。物販事業では、産地名産品やギフト用品など、幅広い商品を郵便局の窓口でご購入いただけるサービスを展開しています。私たちは事業者様から依頼を受けて商品カタログを郵便局に置いているのですが、実は郵便局としての収益はゼロで、いわゆる「寄付受け」という状態が続いていました。

それが民営化に伴い、料金をいただいた対価としてカタログを置くという取り組みへと変えていったのです。すると当然、これまでご利用いただいていた事業者様からはご不満の声が多数上がりました。ただ私たちにとっても、民営化になる以上は収益化しなくてはならないという命題が課せられており、非常に厳しい時期を過ごしました。

支払いが生じることに対する事業者側のご不満を、どのように解決されたのですか。

丁寧な説明に尽きます。当時私が担当していたのは百貨店様のカタログでしたが、全国の百貨店を回ってカタログを置く意義をお伝えし、かつ「料金をいただく以上は、私たちとしても高品質なサービスを提供します」と丁寧にご説明いたしました。その際、単純に料金を設定して「使ってください」と提案するのではなく、百貨店様はもちろんのこと、百貨店様を利用されるお客様にもご理解いただけるような工夫を随所に取り入れました。

そのひとつが、商品購入時にご利用していただく「記入シート」の改良です。これまでは単に項目を羅列したシートを使っていましたが、人間工学に基づいて入力しやすいフォーマットへと変更しました。そうした細かな部分も含め、当時の努力が実を結んだのか、現在カタログ販売事業はひとつの事業の柱へと育っております。

インタビューの様子

本気で改革に挑む姿勢を

その後、上田さんは、ゆうパック事業部や商品サービス企画部を経て、2017年に再び郵便・物流事業企画に戻られています。そこで過去の経験をどのように活かされたのでしょうか。

郵政民営化時代の物販経験を踏まえて、入社したての頃に実感した「決済事業の重要性」を特に意識するようになりました。商品を購入する際、どのようにしてご利用者様に決済していただくか、という点を重点的に考えるようになったのです。当時の決済方法は現金のみで、具体的には配達員が集金し、申込書と共に注文するという流れが一般的でした。しかし、やはり現金だけではお客様のニーズを正確に掴むことも難しいといえます。カード決済の他、窓口でのQRコード決済の利用推進に注力しました。

2019年、上田さんは『オペレーション改革部』として新しい取り組みをされていますが、ひとつの“部署”を立ち上げた理由は何でしょうか。

現行の業務と新しい業務を同時に行うのは、非常に難しいものです。「新しいことを見据えながら既存業務を徐々に変えていく」と言葉にするのはたやすいですが、実際に行ってみると既存業務の忙しさや調整対応に時間がとられてしまい、新しい取り組みの検証がおろそかになってしまうこともしばしば。

ただ、私たちは特に人の力で支えられている企業であることから、今後の生産年齢人口の減少で労働力が不足することが見込まれている時代で「このままで良いのか」という問いは常に繰り返されてきました。そこで2019年、本気でオペレーション改革を検討する部隊を専門で作り、専念できる部署として事業の継続性を高めていこうと決意したのです。こうした新しい取り組みを経営層の理解が得られないまま進めることは困難を極めます。そのため日本郵政では、幹部層も一丸となってオペレーション改革に力を入れ、改革に対する意識を全社的に高めながらプロジェクトを進めています。

― 時代と共に次々と立ちはだかる壁を、どう乗り越えていくか。その時々の工夫すべてが現在のお仕事に通ずるものがあると感じました。次回は、これからの物流について伺います。

<取材・編集:ロジ人編集部>

次回の“タッグを組んで物流の新ステージへ #03″は 6/28(金)公開予定です、お楽しみに!

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