概要

物流業界の課題とは #02 【vol.16 インフィニティーオクターバー 栗田由菜氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。今回は合同会社インフィニティーオクターバーで代表を務める栗田由菜さんにインタビューしました。#02では、栗田さんの考える物流業界の課題についてお話いただいています。

合同会社インフィニティーオクターバー代表社員 栗田由菜氏
大学在学中、コンビニにおける通販配達システム開発立ち上げを経験。大学卒業後は、数多くのECサイトにおけるシステム開発やITサービスの導入に携わる。その後、2015年に合同会社インフィニティーオクターバーを創設し代表に就任。以来、物流コンサルタントとして数多くの企業のEC及び倉庫のITサービス・コンサルティングを行なっている。現在のプロフィールは、東京学芸大学大学院修士課程 / 平成31年将棋普及指導員 / ポケモンカードゲーム公式イベントオーガナイザー / MENSA会員専門は成人教育(ノンフォーマル教育)、教育工学(インストラクション・デザイン)、現象学(E・レヴィナス)他にもアドラー心理学のワークショップにも参加。日本教育工学会 / 日本健康心理学会 / 日本教育支援協働学会 / 日本アドラー心理学会所属

クライアントの目的を達成できる立ち振る舞い

ー 物流コンサルタントとして仕事をする中で大切にしていることは何ですか。

コンサルタントとしてクライアントに助言や提言をする際に、「何かあったら、責任とれないにもかかわらず、自分が責任をとる」という覚悟を持つことです。私は物流のコンサルタントとして、仕事の中で日々多くの企業の内情やシステムを含む広範囲の仕組みについてアドバイスをしています。そしてクライアントは、私の意見を判断材料に会社の方針や問題に対する解決策を決定するのです。企業の将来的な姿を決定する要因になるかもしれない、といった気持ちを持ってクライアントの業務改善に向けたコンサルタントができるよう心がけています。

ー ある種、クライアントと一蓮托生のような覚悟と責任感を持って仕事にあたっているのですね。

はい。コンサルタントという職業は、結果を出して初めて存在意義が生まれるものと考えています。クライアントは、企業にとってのイエスマンが欲しいのではなく、問題解決の糸口を見つけて欲しくて仕事を私たちに依頼してくれるのです。これまでの自分の経験をもとに、時には経営者や従業員には耳が痛いであろうことについても意見を述べることもありますが、それこそが私の仕事です。だからこそ時には嫌われる覚悟を持ってクライアントに接し、自分達に不利益があったとしても、クライアントのためになるのであれば、迷わず実行していくことが大切だと思います。

ー そういった嫌われる覚悟を持つことは、いくら仕事とはいえ、割り切ることは簡単ではないと思います。

クライアントとの関係をなあなあにしてしまうと、問題の解決に支障をきたしかねません。そこはお仕事をいただく以上、線引きしておかなければいけないラインだと考えています。前述の通り「自分が責任をとる」という覚悟を持って仕事に臨んでいるからこそ、クライアントの利益になるのであれば、嫌われてしまっても良いのです。大切なことは、クライアントは何がしたくて私たちに依頼をしてくださっているのか、ということです。人は仲良くなればなるほど厳しいことは言いづらくなってしまいますが、目的を達成するための手段として私が選ばれたということを忘れずに日々仕事を全うしています。アドラー心理学をベースにもしています。なのでいわゆる「嫌われる勇気」ですね。

物流業界の課題とは

ー 実際に仕事をする中で感じた物流業界の課題について教えてください。

「物流業界自体が、自分達の価値を毀損していること」が一番の問題だと感じています。

ー 競合企業や顧客ではなく、一番の問題は自分達にあるということでしょうか。

はい。言い換えるなら、自分たちの価値を本当の意味でわかっていない、ということです。たとえば、物流コンサルタントをしていてクライアントの業務改善案としてよくあるのが、コストカットをしたい、といったご相談です。コストの削減自体は、組織を運営していく上で検討しなければならない重要な要素です。しかし、物流業界に身を置く多くの方は、自分達がモノを一つ運ぶのにどのくらいのコストがかかっているのか把握していないままコストの削減ばかりを目指してしまう傾向にあります。

ー 条件反射的に、業務改善といえばコストカット、といった考え方になってしまっていると。

もちろん、物価高が続いている状況において、配達におけるコストは非常にシビアな問題です。荷物を梱包する資材や段ボールが値上がりしている以上、値下げどころか値上げするのが自然な流れといえます。物流業界全体として、自分達のサービスの適正価格を理解していないからこそ「安ければ安いほどいい」という考え方が当たり前になっているのだと感じています。

ー そうした事例について、もう少し詳しく教えてください。

ネット通販に関する倉庫業務の例であれば、「注文受注後のキャンセルをどこまで受け付けるのか」といった問題です。消費者にとってはキャンセル可能時間が長ければ長いほど便利ですから、当然通販サイトを運営している側としては、できるだけ顧客の希望通りのサービスを提供したいと考えます。しかし倉庫側の立場になって考えると、それだけ配達に向けた作業が進んでいるということになります。ある程度配送に向けた準備段階が完了していれば、その分現場の業務負担は増加し、コストもかかります。

通販サイトを運営する企業も倉庫も、本来であれば対等なパートナーであるはずです。お互いのメリットを考えたフェアな取引が行えるように、私自身も倉庫側のコンサルタントという立場から働きかけをしています。

ー そういった物流業界全体の考えや問題を改善するにはどうしたら良いとお考えですか。

物流業界全体が当事者意識をもち、自分の所属している企業やチームの問題に向き合うことから始めるべきだと考えています。業務の中でどんな課題が生じているのか、またどうすればそれを改善できるのかを、経営者だけでなく現場のメンバーも考える必要があります。せっかく業務効率化のためのシステムを導入したとしても、使わなければ導入後の効果さえわからなくなってしまいます。日々の業務を漫然とこなすのではなく、配送にかかるコストの内訳や、特定の業務にかかる時間が増えているのはどうしてなのか、について考えることのできる人材を増やすことが、物流業界の課題を解決する第一歩だと思います。

ソリューションが組織に根付くまでがコンサルタントの仕事

ー 栗田さんは、そういった物流業界の課題解決に向けて、どういったアプローチを行っていますか。

基本中の基本ですが、現場の方々が具体的にどんなことで困っているのかをよく聞くことを大切に日々仕事にあたっています。仕組みやシステムを導入したとき、実際に活用するのは現場で働く方々です。ヒアリングで聞き取った悩みが打ち出した改善策によって解決されれば、現場にとっても貴重な成功体験となり、業務効率化に対して前向きになれると考えています。

ー 日々の業務が便利になったという経験が、業界の考えを変える第一歩になるということですね。

はい。便利なシステムを導入したとしても、現場の方に使い方やシステム導入の必要性を理解していただけなければ意味がありません。ただ解決策を提示して導入するだけでは、私たちは単なるシステム屋になってしまいます。うまくシステムを活用して継続して機能するように仕組み化してこそ、物流プロセスのソリューションを提供できたと言えるのではないでしょうか。

ー 解決策の導入をスムーズに組織の仕組みに取り入れるには何が大切なのでしょうか。

現場の方に手を動かしていただき、実際に新たなフローを体験してもらうことが重要です。既存の仕組みの中に新しい要素を入れるということは、手間が一つ増えるという見方もできます。だからこそまずは体験してもらって、システムを導入することで単なる面倒くささではなく業務の効率化がもたらされることを実感してもらうのです。

また新規施策の実施前から、既存フローのどの部分を変えてどういったものを仕組みの中に入れるのか、こちらが提供するソリューションと現場側の意見を丁寧にすり合わせることがスムーズな施策浸透につながると考えています。

ー 物流業界に限らず、新しいサービスを導入してもそれを活用するか否かは、結局現場の人次第な気もしますね。

まさにその通りだと思います。人間は普段と同じことをしていると心理的に安心する性質、裏を返せば変化を恐れるという特性を持っています。本当に困ったと感じない限りは、組織全体としても従業員としても変化しづらいのです。だからこそ、組織にいかに歩み寄れるのか、また継続的に利益が出るような仕組みづくりをどうやったら根付かせることができるのかを考える場面こそ、私たちの腕の見せ所だといえますね。

<取材・編集:ロジ人編集部>

次回の“今後目指したいキャリアビジョン #03″は 9/8(金)公開予定です!お楽しみに!!

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