概要
物流業界ならではの大変さとは? #02 【vol.14 森嶋涼子氏、上原美佳氏】
ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。今回は株式会社メルカリで事業開発 マネージャーを務める森嶋涼子さんと、新規事業ロジスティクス導入プロジェクトマネージャーを務める上原美佳さんにインタビューしました。#02では、お二方が感じる物流業界の課題や大変さなどをお話しいただきました。
▼前回の記事はコチラ
▼ 株式会社メルカリBusiness Development マネージャー 森嶋涼子氏
大学卒業後、大手鉄鋼専門商社に入社し、ヨーロッパや欧米に向けて貿易を展開。2006年には、日系商社にてサンフランシスコ勤務を経験し、新規物流プロジェクト立ち上げを担当。2007年には、アマゾンジャパンに参画し、物流ネットワークの立上げ責任者を務める。その後、2021年に株式会社メルカリにて、新たな物流ネットワーク構築立ち上げ責任者を務め、2021年8月より現職。
▼ 株式会社メルカリ Business Developlement プロジェクトマネージャー 上原美佳氏
自動車関連企業に入社し、品質管理部門を担当。2010年には米国系店舗セキュリティサービスシステムの企業にて、サプライチェーン、デマンドプランニング、輸出入の業務を経験。2012年にアマゾンジャパンにて、物流ネットワークの立上げプロジェクトに参画。2022年に株式会社メルカリにて、新たな輸送サービスプロジェクトの推進を務め、2022年2月より現職。
物流ネットワークを「0」から創り上げる
ー 物流業界で働いていて大変だったことを教えてください。
森嶋さん:アマゾンジャパンの新規プロジェクト立ち上げの際にはとても苦労したことを覚えています。私が転職した当時のアマゾンジャパンは、物流ネットワークを新たに構築しようとする過渡期でした。私は新規物流ネットワーク構築の計画作成を担当していましたが、0からの立ち上げだったため、組織としての仕組みづくりがなされていなかったのです。誰が1日に何個商品を運ぶのか、現状の進捗具合はどうなのか、といった基本的なことすら把握できていない状態だったため、まずはプロジェクトよりも組織としての仕組みづくりに着手することにしました。
ー 新規物流ネットワークの構築よりも、まずは組織としての基盤を固めることを重視したということでしょうか。
森嶋さん:そうですね。そもそも商品を予定通りに配達できなければ、最終目標である物流ネットワークの構築を達成できません。事前に確認すべき項目をひとつひとつ明確にしていきました。たとえば、当日運ばなければならないものがいくつあるのか、またそれをどのドライバーさんがどのような配分で担当するのか、今の進捗はどこまで進んでいるのか、など把握すべきポイントは数多くあります。ただ、実際に商品を運ぶのはドライバーさんですから、机上の空論にならないよう、実用的な計画を作成していました。
ー ドライバーさんとの連携は最初からスムーズに進んでいたのですか。
森嶋さん:同じチームとして業務にあたっているものの、ドライバーさんは他の運送業者様に所属しています。当初は双方の理解が浅く、意図することがうまく伝わらなかったり、こちらの意図とドライバーさんの意向がすれ違ってしまったりすることも多々ありました。
ー そのような中、どのようにして連携を強化していったのでしょうか。
森嶋さん:まずは相互理解を深めようと努めました。組織としてのゴールや目指す方向性に乖離があれば、トラブルにもつながりやすくなります。朝礼に出席し、ドライバーさんに当日のゴールやこちらの意図を明確に伝えたり、仕事中にコミュニケーションをとって彼らが何を目指しているのかを把握したりと、目線合わせをしていきました。それを繰り返すうち、少しずつ連携が取れるようになっていったのです。
ー そういった大変な時期を乗り越える原動力はなんだったのでしょうか。
森嶋さん:一つの現場を任されているという「使命感」だったと思います。当時は確かに忙しかったですが、仕事に夢中になっていたので大変だとは感じていませんでした。その日の配達状況を見て、無事に全ての荷物を配達できるのかどうかを常にチェックしながら、「自分がやらなければ誰がやる」いう思いで仕事にあたっていました。
上原さん:私も当時は森嶋さんと同じプロジェクトに参加していましたが、確かにその場にいる時は大変さを感じていなかったように思います。それよりも、どうすれば組織をより効率的に体系化できるのかをひたすら考えていました。
ー 自分に与えられたタスクをこなす中で、組織としての体系化がなされていったということですね。
森嶋さん:そうですね。チーム内で孤立感がなかったのも大きかったと思います。毎日一緒に仕事をするうち、徐々に目線や仕事に対するモチベーションも揃ってきました。朝礼で自分の考えを共有したり、職場環境の改善のためにゴミ箱を設置したりといった小さな積み重ねが、組織の体系化につながっていったように思います。
物流業界の課題とは
ー お二人の考える物流業界の課題についてお聞かせください。
森嶋さん:先ほどの大変だったことと重なる部分もあるのですが、多くの現場において知識やノウハウが体系化されていないことが最大の課題だと思います。たとえば、物流業界では近年「ラストマイル」がキーワードとしてよく使われています。新卒や就活生すら頻繁に口にするほど、物流業界内ではよく知られている単語です。しかし、日本国内で「ラストマイル」という言葉の定義が明確になされているわけではありません。
試しにYouTube上で検索してみても、英語で検索するとラストマイルに関する説明動画がかなりヒットしますが、日本語検索ではあまり出てこないという現状があります。これだけ世に出回っている言葉なのに、日本の物流業界の中では「ラストマイル」を体系化して説明をしている人がいないのです。これはもはや課題というより不思議に感じてしまいますよね。
上原さん:体系化されていないからこそ、問題の解決に時間がかかってしまうことも課題だといえます。現場で起きている問題の解決をしようとしても、どこにも解決策やノウハウが見つからないという状況に陥ることが多々あります。だからこそ、困難な局面では自分たちがもつ経験をもとに原因を仮説立てながら、少しずつ前進していきたいです。
ー 物流の大手企業であれば、そうしたノウハウの体系化が行われているのでしょうか。
上原さん:そうかもしれません。働いている間はあまり気づきませんでしたが、外に出てからアマゾンジャパンはアルゴリズムやメカニズムがかなり整備されていたように感じました。
現在、私はメルカリ内における自社配送の物流ネットワーク構築プロジェクトを担当しています。当初は、前職のアマゾンジャパンでも同様のプロジェクトを経験していたため、ある程度課題解決のノウハウが自分の中にあると自負していました。しかし、プロジェクトを進めていく中で、アマゾンジャパンのアルゴリズムがあって初めて課題解決ができていたのだと痛感することが多々あったのです。
問題の解決方法は、その組織の体制やアルゴリズムによって柔軟に変えなければなりません。私の今の課題は、自分の中の経験をどうやって組織に反映させるかということにあります。
森嶋さん:これまで自分が仕事をこなすことで蓄えてきた経験や知識を周囲に還元するのは、私の課題でもあります。いかにしてノウハウや経験を組織内に浸透させていくか考えつつ、身の回りにいる人たちだけではなく、組織全体に伝える発信力を身に付けていきたいですね。
女性の働きやすい環境整備が進む物流業界
ー 物流業界でお仕事をされる中で、女性ならではの大変だったことはありますか。
森嶋さん:正直全くないですね。
上原さん:私もありません。
ー ただ、物流業界は他業種に比べて、女性の就業率が低いといったデータもあります。
森嶋さん:女性の就業率が低いことは実際に働いていても感じますが、だからといって女性だったことによって困ったことは、これまでのキャリアを通しても特にありません。アマゾンジャパン時代にはなりますが、女性就業率は製品の原材料や部品の調達に至る、いわゆるサプライチェーン全体で20%ほど、さらに輸送部門のみに絞るともう少し減少します。ただ、最近では物流に対して親近感を持つ方が増えたこともあり、以前までは少なかった新卒内の女性割合も上がってきているように思います。
ー 物流業界における女性就業率の上昇は何がトリガーになると思われますか。
上原さん:物流センターが女性の働きやすい環境になってきていることが、主な要因になると考えています。これまで女性就業率の低さや女性管理職が少なかったのは、働く環境が過酷だったり、24時間どの時間帯の勤務にも対応しなければならかったりといった労働環境が業界のスタンダードだとされてきたからです。子育てや体力的な面を考えると、女性が参入しづらい現場が多く、その結果女性管理職も少なくなってしまうのが、これまでの物流業界における状況でした。
しかし近年では、時代の流れと共に物流業界全体で労働環境が変わりつつあります。たとえば都市部の物流センターの中には、施設内に託児所やカフェテリアが併設されているものもあります。建物や設備も綺麗に整備され、労働環境は私が物流業界に入った時より改善され、女性が働きやすい職場に変化してきているのです。
ー 時代とともに物流業界の働き方も変わってきているということですね。
上原さん:はい。女性管理職はまだまだ少ないものの、今後女性就業率が上昇していけば、おのずと10年、20年後に女性管理職の割合が大きくなると予想しています。すぐには難しいかもしれませんが、時代が進むにつれて物流業界内で活躍する女性が出てきてほしいですね。