概要
物流課題によくある誤解!消費者にできることとは #02 【vol.11 進藤 智之氏】
ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は株式会社メルカリで執行役員 VP of Logistics Marketplaceを務める進藤智之さんにインタビューをしていきます。#02では、ラストマイルの課題を中心にお聞きしていきたいと思います。
▼ 前回の記事はコチラ
▼ 株式会社メルカリ執行役員 VP of Logistics Marketplace 進藤 智之氏
大学卒業後、ヤマト運輸に入社し、法人支店長を経験。2007年には日本IBMにて、コンサルティング事業部にて運輸・物流のプロジェクトを担当する。2013年にアマゾンジャパンに参画し、物流ネットワークの立上げ責任者を務める。2020年、イオンネクスト準備株式会社にて理事物流部長に就く。その後、2021年にメルロジ代表取締役COOに就任し、2022年2月より現職。
物流課題の報道に疑問符
- 進藤さんは過去のご経歴から( #01より)輸送事業やラストマイルに精通していらっしゃると思います。宅配便の利用が増えている中で、一番の課題と解決策がありましたら教えてください。
最近報道でよく取り上げられているホラーストーリーが2つあります。ひとつはドライバーさんの時間外労働の上限が定められ、一人当たりが担える走行距離が短くなる2024年問題。もうひとつが日本の人口の3分の1が65歳以上になってしまい、働き手不足が懸念される2030年問題。2030年問題に至っては地方のコンビニに供給ができなくなると報道されています。両方とも事実だとは思いますが、ドライバーさんが足りないという課題をひとまとめに議論することはすごく危険です。
一括りに「輸送」といっても、集荷にあたる「ファーストマイル」があって、次に幹線輸送の「ミドルマイル」、最後に消費者に届けるための「ラストマイル」に分かれています。この3つの軸は、免許やドライバーさんの種別が異なります。運ぶ荷物もBtoBか、BtoCかによって課題感がまったく違うはずです。それなのにメディアがひとまとめにして議論しているのは、ものすごく危険だと思っています。
業界として、2024年・2030年の課題はもっと前から手を打ち始めているわけです。アマゾンの自社配送も一般貨物から軽車両のドライバーにラストマイルをシフトしています。ヤマト運輸もEASY(イージー)というサービスでECの荷物は、軽車両で運ぶ方向にシフトしています。
なぜかというと、一般貨物のドライバーは減っている一方で、ラストマイルのドライバーのボトム数は増えていっているからです。そのため輸送のモード、運び方、運ぶ荷物によって、どういう形で課題が直撃するのかを一つひとつ丁寧に議論をして解決していくことが重要です。
つまり業界全体の課題として、2024年問題、2030年問題がホットであることには間違いありません。ただそれらの解決策を一足飛びにロボティクス化と考えるのではなく、やり方を変えていくだけでも解決できるフェーズだと思っています。
「お急ぎ便」の意外な事実
- ロジスティクス業界にいながら、ファーストマイルからラストマイルまで分けて考える必要があることを今、初めて知りました。私個人としては物流に携わるようになって、アマゾンで商品を頼むにも日時指定やお急ぎ便が申し訳ないと思うようになってきたところです。
実は日時指定をして、家にいてくれるのが1番いいんですけどね。実際のところ「お急ぎ便」でも「普通便」でも輸送のプロセスは一緒なんですよ。変わるのは倉庫の出し入れに関する早さだけです。
「お急ぎ便」は出荷まで2時間で荷物の準備をします。それに対して普通便は約7時間後までに荷物の準備をして出荷する。そこの違いだけです。あとの輸送プロセスはすべて一緒であるため、ドライバーさんにとっては「お急ぎ便」も「普通便」も変わりません。いずれも荷物が多いだけですね。
- なるほど、持ち戻りがなければいいのですね。置き配もよく利用しています。
ありがとうございます。私がアマゾンジャパンで最後に手がけた仕事のひとつが置き配の導入です。
- 置き配の導入はハードルが高かったのではないでしょうか。
とても高いハードルでした。文化の壁は、ロジックでまかり通る話ではないですからね。「置くなんてありえない」という声も、もちろんありました。
- 物流業界以外の方も日常的に通販を利用するのであれば、ラストマイルは全員が関わると思います。利用するうえで工夫できるポイントはありますか。
アマゾンの話だけの話でいえば、プロセスがしっかりできているので、実は「お急ぎ便」で出した方がいいという考え方もあります。しかし業界全体としてはアマゾンほどプロセスが洗練されていません。その環境下では、お客様にサービスレベルの点で歩み寄ってもらえると楽になります。
ある程度日数に余裕を持って届けていいのであれば、輸送プロセスの工夫ができます。少なくとも当日納品や翌日納品で届けるには、ピンっと張りつめた中で配達を遂行する必要があるのに対し、納品まで1週間あれば単純に余裕が出ます。その中でやり方の工夫ができるため、物流業界の負荷は下がるでしょう。今はかなり高いサービスレベルを求められていますよね。
ロジスティクスを一歩先へ
- 私の周囲では、余裕を持って商品を頼む人が増えていると感じています。海外から届く通販サイトを利用する友人も多いため、1ヶ月待つことも当たり前と捉えているんです。そういった流れが進んでいくといいですよね。
そうですね。ただ一方で、ロジスティクスの業界側としてできることもまだまだあるはずです。置配率が高まるとラストマイルは完全に解決すると思われているかもしれませんが、実は置配が100%になったとしても、生産性の向上率は25%ほどにとどまります。もちろん不在による影響は受けなくなるメリットはありますが、配達にかかる時間として、玄関でチャイムを鳴らすところまでは同じです。待っている時間の差でしかありません。
一方で置き配なら夜中の稼働も可能なので「24時間配達したら」と仮定して考えてみたこともあります。夜中に走ると渋滞がなくなるため移動距離の生産性が上がるのです。しかしあたりが暗く、住所が見えないため、今度は人としての生産性が下がります。何が正しいのか、考え続けなければなりません。
- より良いサービスを目指すために、次のステップを考え続ける必要がありますね。現職のメルカリで実現したい目標はありますか。
メルカリは2月1日で創業10周年を迎えました。それを機に掲げたグループミッションが「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」です。
たくさんのお客様にご利用いただき、より大きなマーケットプレイスを作っていきたいと考えています。それにはあらゆる取引を包括していかなければなりません。現在メルカリをご利用になっている人のイメージでは、小さな商材しか扱えないイメージがあると思います。今後は大きな商材も扱えるようにして、循環させるマーケットプレイスにしていくべきです。
多くのセラーさんが参入してくだされば、多くのバイヤーさんが集まってくれることになります。その人たちの可能性を広げ、人生を豊かにできるようなマーケットプレイスを作っていきたいです。その中でロジスティクスは重要な役割を持っていると思っていて、大きな商品を取引出来るようにするためには、どうやって運ぶのかを考えなければなりません。それはグループミッションの達成にもつながりますし、お客様によりよいサービスを提供することにもつながります。
ロジスティクスはベースになる部分なので、50年先、100年先、お客様に愛してもらえるロジスティクスのサービスをしっかり考えてローンチしていきたいです。このロジスティクスのサービスがメルカリだけではなく、その他のCtoCやBtoCも含めた、ECの中でスタンダードになるところまで見据えて考えたいと思っています。
ー ありがとうございます!次回はキャリア形成のヒントをメインにお話を伺いたいと思います。