概要

物流の三角形をコンプリートして見えた世界 #01 【vol.11 進藤 智之氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は株式会社メルカリで執行役員 VP of Logistics Marketplaceを務める進藤智之さんにインタビューをしていきます。#01では、多岐にわたる物流のキャリアを通じて得た視点についてお聞きしていきたいと思います。

プロフィール画像
株式会社メルカリ執行役員 VP of Logistics Marketplace 進藤 智之氏
大学卒業後、ヤマト運輸に入社し、法人支店長を経験。2007年には日本IBMにて、コンサルティング事業部にて運輸・物流のプロジェクトを担当する。2013年にアマゾンジャパンに参画し、物流ネットワークの立上げ責任者を務める。2020年、イオンネクスト準備株式会社にて理事物流部長に就く。その後、2021年にメルロジ代表取締役COOに就任し、2022年2月より現職。

「究極のシンプル」を目指すメルカリ

- 現在の仕事内容を教えてください。

メルカリでロジスティクスの全体戦略と設計、その設計をローンチする事業本部を管掌しています。ご存知の通り、メルカリはもともとCtoCをメインとしたマーケットプレイスです。今はさらにメルカリショップと呼ばれるBtoCも展開しています。マーケットプレイスの特性上、扱うものはセラーさん(売り手)の商品ですが、メルカリとしてお届けまでをサポートしていく必要があります。その部分を担う仕事です。

- メルカリさんのサービスといえば、完成されているイメージがあります。まだ課題は残っているのでしょうか。

たくさんありますよ!メルカリで出品した経験はありますか。

- あります。

出品の作業って、めんどくさいと感じませんでしたか。

- 正直なところ、分からないところがあったりして調べました。

そうですよね。一般の方であれば、まず「商品サイズってなに」と疑問に思うじゃないですか。現状、セラーさんが自分で荷物のサイズを測らなければならなかったり、適した梱包材を考えなければならなかったりする煩わしさがあります。

さらに細かいところでいえば、セラーさんの出荷とバイヤーさん(買い手)の受け取りに関して納品日の設定ができません。そういった約束ができるメカニズムを入れていくような細かなニーズにも対応していきたい。それが課題です。

ビジネスはシンプルが1番。シンプルにすればするほど、お客様に使っていただけます。そのため、お客様は面倒を何も感じずに出品できる「究極のシンプル」を目指しています。地味ではありますが、長くお客様に使ってもらえるサービスを構築するには、ベースとなる機能の改善が重要です。

-たしかにもっと簡単になれば、出品したいものがまだまだ家にあります。

そうですよね。実は我々もメルカリをたくさん使っているのですよ。お客様の立場で同じペインを感じられるからです。仮説を立て、解決していきたいと思っています。

キャリアで物流の三角形をコンプリート

- 進藤さんは新卒でヤマト運輸、それからIBM、アマゾンジャパンなど、様々な企業でキャリアを積みながらも一貫して物流に関わってこられたと思います。新卒でヤマト運輸を選んだ理由を教えてください。

私が新卒で入社した2000年当時、日本は就職氷河期と呼ばれていました。日本史上、就職が1番厳しい年だったといわれています。平たく言うと、様々な企業で落とされてしまい、やっと入社できたのがヤマト運輸だったんですよね。

ただまったく物流に興味がなかったわけではありません。まず、これからの時代はテクノロジーがキーになってくるだろうと考えていました。そのため、IT化が遅れていて改善や改革がされていくであろう業界や消費者に一番近く裾野が広い仕事に、大きなオポチュニティー(好機)があるのではないかと考えたのです。

この2軸でお客様により良いものを提供できる業界を探った際に、結果として残った選択肢が小売りと物流でした。いずれかの業界に行けば、将来自分の可能性が高まるのではないかと感じたのです。その中でもヤマト運輸の「宅急便」という言葉は、商標であるにも関わらず「宅配便」と置き換えられるほどお客様に認知されていました。新卒でヤマト運輸に入社した経緯です。

- その後IBMやアマゾンジャパンに転職された経緯やキャリア形成のきっかけを教えてください。

ヤマト運輸に入社してみると「宅急便」という優れた商品にこだわりや強みを持っている会社でした。その商品である「宅急便」の販売がメインです。私がやりたかったのは「お客様が求めていることに対し、サービスがどうあるべきかと考えていく」仕事でしたので、そこでギャップが生まれてしまいました。

当時は怒られたのですが、「お客様の状況によって最適なサービスを」と考えたときに、ヤマト運輸を使わない提案もしていたんですね。今思えば協調性はなかったと思います(笑)自分の中での軸を大切にしていました。しかしそういったチャレンジをしていくと、社内でも誰かしらが見ていてくれて、「チャレンジしてみれば」とチャンスをもらえる流れになりました。

入社3年目くらいの時です。法人支店に配属になり、3PLのサービスやWMS(在庫管理システム)の導入・開発に携わることができました。しかしそれでもギャップが拭いきれず、今一度自分がやりたかった仕事を目指してジョブチェンジをしようと決断しました。

- その後のキャリアについてはいかがでしょうか。

ヤマト運輸から次にどこに行こうかと考えたときに、IBMが物流業界に精通したコンサルタントの人材を募集していました。私のバックグラウンドとたまたま合致したのです。入社後、経営者への提案の仕方といったハードスキルをかなり鍛えてもらいました。一方で社内の人は皆、とても優秀で新卒に戻ったような感覚になり、入社2週間で辞めたいと思いました。「物流業界に戻ろう」と。

でもどうせ戻るのであれば、今自分にできることをやれるだけやってから辞めよう、戻ろうと思ったのです。その中でコンサルタントとして、ヤマト運輸や佐川急便を担当することになりました。ヤマト運輸で働いていた頃はオペレーション部隊だったのですが、今度はコンサルタントの立場で経営者に会うことによって、新しい視点が養われました。ロジスティクスを縦軸で捉えたときに、上から下まで何が起きているのか全体像がわかるようになってきたのです。

さらにIBMで鍛えられたハードスキルが自分のものとして定着し、そのころにはIBMでも評価されるようになっていたんですね。IBMを辞める気がなくなった頃に、アマゾンジャパンから「会いませんか」と連絡が来ました。当時2013年頃、日本でのアマゾンの取扱商品は本がメインでした。そのため、まったくイメージが湧かず、1度はお断りしたんですけれども。それでも「話しましょう」といっていただいてお会いしました。

その際、人生を振り返って気づいたのです。ヤマト運輸で物流の現場を知って、IBMでコンサルタントとして比較的上流を知り、私の中のピースで足りないのは荷主から見た視点だと。この荷主の視点を養うためには、メーカーよりECに携わる方がいいのかもしれないと捉え、アマゾンジャパンにジョインしたわけです。これで物流の三角形がすべてコンプリートできるのではないかと思いました。

- 新しいことにチャレンジして学び直すのは、体力が必要だと思います。いかがでしょうか。

私にとって新しいチャレンジをしている感覚はありませんでした。いち産業として捉えれば、ベースであるロジスティクスの部分は変わっていないので、その世界観を広げていった感覚です。IBM時代は覚える辛さより、単にコンサルタント業務をやったことがないので苦しいなとは感じましたけどね。

アマゾンジャパンから受けた衝撃と新たな視点

- ジョブチェンジをして、物流業界を新たな角度から見たときに気づいたことはありますか。

例えば物流会社にいると、荷主に対して「なぜ時間を守れないのか」「なぜ計画通りに荷量が出ないのか」と感じるシーンがどうしてもあります。1つの側面しか見えていなければ「なぜ解決できないんだ」と不平不満に近い気持ちを持ってしまうのも仕方がありません。

一方で荷主の立場に立つと、計画を立てることの難しさがわかります。結局サプライチェーン※の世界なので、起きている事象にはどこかに絶対理由があります。
※サプライチェーン:調達から販売までの一連の流れ

全体の中でどう解決していくかという観点に立たないと物事は解決できません。荷主と物流会社だけではなく、ソフトウェアの会社やコンサルタントも含めた、すべてのステークホルダーが共通理解をしていく必要があると感じるようになりました。

- サプライチェーンはさまざまなステークホルダーが複合されていますからね。俯瞰して見れるようになったターニングポイントはどこにあったのでしょうか。

私自身のキャリアを振り返ると、一番の大きなターニングポイントはアマゾンジャパンでした。あの事業規模から、急成長していく様子を社内で経験する機会は人生でなかなかないと思います。私がアマゾンジャパンに入社した2013年は、輸送事業本部の人数が1ケタでした。それが5年後の2018年には数百人規模になるほどの成長スピードです。

私は自社配送を検討するマネージャーとして入社しました。3ヶ月後にシアトルに行くと、アメリカのえらい方が「日本の自社配送は無期限延期」と言うんです。失意のもと日本に帰り、日本の副社長にどうすればいいか相談すると「仕事は自分で探してください」と言われてしまって(笑)そういった部分も含めて、いい経験になりました。

ビジネスもアジャイルですよね。決まっていない中で走り続ける。私が採用された際も「自社配送をやるかどうかわからないけれども、やるのであれば必要な人材」と判断されたようです。仮にその仕事がなくなったとしても、次から次へとやらなければならないことはあります。「それをやればいいでしょ」という考え方。そういったダイナミックな仕事の進め方を経験から学びました。

ー ダイナミックな仕事の進め方があってこそ、事業の成長が早かったのかもしれませんね。

またエクスペリエンスの考え方に衝撃を受けました。アマゾンジャパンには「カスタマーエクスペリエンス」という考え方があります。

「お客様にとって、このサービス提供すると、どんな良い影響があるのか」「企業として、そのサービスを提供すると、どれくらいの利益を出せるのか」この2軸で考えるのは企業活動として当たり前の話です。

アマゾンジャパンで衝撃だったのが「お客様にこれだけの良いインパクトがあるのであれば、やろうよ」となるのです。他方で利益が出ることでも「お客様に我慢をしてもらわなければならないのであればやめよう」と判断します。アマゾンジャパンは成長するための考え方が、とてもしっかりしています。「お客様に選ばれるためには、お客様にとって1番良いことをすれば良い」という考え方です。アマゾンの共同創設者であるジェフ・ベゾスがいったように、長期的な視点に立って会社を経営していると感じます。

- 強い信念を持っているからこそ、皆同じ方向を向いて、成長できるんですね。ロジスティクスの観点では、どのような視点が得られましたか。

ロジスティクスを重要視しているアマゾンジャパンには、リテール部門の社長とロジスティクス部門の社長、当時2人の社長がいました。この2人は並列なんですよね。

アマゾンジャパンはテックカンパニーではなく、サプライチェーンの会社だと思いました。ジェフ・ベゾスもアマゾンを「サプライチェーンの上にお店がのっているだけでしかない」と表現しています。メルカリは、私のようにロジスティクス担当役員を配置していますが、日本では珍しいことです。

アマゾンジャパンではいろんなことを教わりました。いや、教わったのではなく物事の考え方をすべてひっくり返されて、本来原理原則とはこうあるべきだと教え込まれた会社だと思っています。

ー 大きな成長を遂げたアマゾンジャパンにとっても、物流は重要な役割を担ってきたのですね。次回は進藤さんが構築した置き配やラストマイルについての話題を中心にお話を伺いたいと思います。

<取材・編集:ロジ人編集部>

次回の“物流課題によくある誤解!消費者にできることとは #02″は 4/28(金)公開予定です!お楽しみに!!

あなたの周りのロジ人をご紹介ください!