概要
人の仕事が奪われる?知能ロボットを広める意義 #02 【vol.10 藤巻 陽二朗氏】
ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、株式会社Mujinで物流営業部 統括を務める藤巻陽二朗さんにインタビューをしていきます。#02では物流ロボットの現状と広めていく意義についてお聞きしていきたいと思います。
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▼ 株式会社Mujin 営業本部 物流営業部 統括 藤巻 陽二朗氏
大学卒業後、大手資材会社へ就職。2018年に株式会社Mujinに転職。営業本部物流営業部担当課長を経て、現職に就く。
知能ロボットが1時間に1,000ケースの荷さばきを可能に
ー 改めてMujinの事業を教えてください。
我々Mujinは独自開発したロボット知能化技術により産業用ロボットの知能化を実現し、物流・製造現場へ自動化ソリューションを提供しています。知能ロボットコントローラ「Mujinコントローラ」を主軸に、環境に応じて臨機応変に対応できる知能ロボットを構築し、これまで難しいとされていた複雑な工程の自動化を推進しています。
2011年7月に創業し、今年の7月で12年目を迎えます。私が所属する営業部では、事業の内容は大きく分けて物流、FA (工場の自動化)、モバイルロボット(AGV:無人搬送車)の3つの分野をそれぞれの担当者が担っています。
あとはコントローラのOEMという特殊な事業も行っています。ロボットのコントローラをメインとして、その周辺を構成する機器やシステムも含めた商品の提供が主な事業です。
ー その中で藤巻さんは物流部門の営業部で統括をされていらっしゃるのですね。(#01より)
はい。私が営業として携わっているのは物流向けのソリューションで、パレタイズロボット(MujinRobotパレタイザー)、デパレタイズロボット(MujinRobotデパレタイザー)、ピッキングロボット(MujinRobotピースピッカー)、この3種類の知能ロボットをメインに扱っています。
パレタイズは、物流現場でパレットと呼ばれる台をはじめ、かご車やカートラックと呼ばれる什器に段ボール箱などのケース品を積んでいく作業です。デパレタイズは、パレットなどに載っているケース品を荷下ろししていく作業です。ピースピッキングは、ケースではなく小物などのピース品をピッキングする作業を担います。
従来のロボットですと、決められた位置にあるケースを、どのように取りにいくか、予め1つ1つの動作をロボットに教え込まなければなりません。そのうえで初めてロボットが動きます。ケースの位置を変えたり、ずらしたりすると、従来のロボットでは対応できません。
しかし、Mujinの知能ロボットは、3Dビジョンカメラがケースの位置や周辺環境を正確に把握し、脳みそにあたるMujinコントローラが認識結果をもとに最適なロボット動作を計算し、ロボット動作を生成するため、状況に応じて臨機応変な対応が可能です。これが、我々Mujinが強みとするロボット知能化技術です。
他にも、ロボットハンドの開発が進み、最近では、天面と側面の、2面でケースを持ち上げる二面ハンドなども登場しました。例えば、飲料の入った重たいケースなどを天面のみのハンドで移載しようとすると、破損を考慮し、スピードを出すことができず移載能力は軽いケースに比べて下がります。
しかし二面ハンドなら、安定力が増し、より早く移載できます。その他にも同じケースの場合は2つ同時に移載することで搬送能力向上を実現しました。日々技術に磨きをかけることで、エラー率は下がり、能力は上がり、お客様の課題解決に貢献できるよう邁進しています。最近では荷下ろしを担うデパレタイズロボット(MujinRobotデパレタイザー)ですと、1時間あたり1000ケースの能力を実現します。
ー 1時間に1,000ケース!それは労働力面をカバーしてくれるだけでなく、コストパフォーマンスも良さそうです。
それでも「私(人間)がやるほうが早い」という人もいるかもしれませんが、作業者の方が作業するにあたり、朝の8時から夕方の17時まで休憩もとらず、お昼も食べずに運べるかといえば、それは難しいですよね。また、運ぶものが重たければ身体への負担もかかります。そういった重筋作業を作業者の方々に代わって知能ロボットが担います。
お客様からも「今まで夜の19時まで残業をしていたのに、知能ロボットを導入して自動化したら15時には作業が終わった」と喜びの声をいただいたこともあります。
ロボットは人の仕事を奪うのか
ー 逆説的ではありますが、ロボットの進化に伴う自動化により、人の仕事がなくなってしまうのではないかと懸念の声も聞きます。どうお考えですか。
たしかにそういったお声を聞くこともあります。しかし知能ロボットが人の作業を奪うのではなく、人に負荷のかかるような大変な作業を担うことで、人がより付加価値の高い分野に時間を割くことができ、それにより社会全体が豊かになると我々は考えています。
夏場の暑いときに、ペットボトルなどの重たい飲料がたくさん出荷されます。買う側からすればスーパーに行けば必ず商品が並んでいて、スマートフォンをポチッとすれば、家に商品が届く便利な世の中です。
一方で物流の観点から見れば、誰かが物流センターから商品を発送しています。とても暑いから飲料の需要が増える。それはつまり、重たい飲料の出荷作業を作業者の方々が担ってくださっていることに繋がります。大変ですよね。もしその方たちに「こんな仕事は嫌だ」といわれたら、飲み物が飲みたいときに飲めなくなってしまいます。そこで生まれる選択肢が自動化です。
Mujinの知能ロボットが暑い、寒い、重たいなどの人に負荷のかかるような大変な作業を担うことで、人はより付加価値のある作業ができるようになり、より効率的により良いものを世の中に届けることができると思っています。
ー Mujinが実現を目指す世界観を教えてください。
「過酷な労働から人々を解放し、人類が創造性、技術革新、そして世界をより良くする活動に集中できる世界を実現する」
これが我々の目指すビジョンであり、これに向かって突き進んでいます。世の中には大変で辛い仕事がたくさんあります。そういった仕事を我々の技術で自動化し、人々を重筋作業から解放することで「豊かな世の中にしていく」というビジョンです。
私自身、この会社のビジョンに共感していますし、Mujinにはこういったマインドを持ったメンバーが世界中から集まっています。また、もっといろんな方々に簡単にロボットを使っていただきたい思いから、「すべての人に産業用ロボットを」というのをスローガンに掲げています。必要な時に誰でも簡単に使えるようにしていくために、これからも精進していきます。
ー ありがとうございます。現状はどういったフェーズだと感じていますか。
実績が増えるにつれて、風向きが変わってきていると感じています。足しげく営業に通い、お客様と信頼関係を構築してきた中で、「Mujinを応援したい」「最新の技術を使ってみたい」と、言ってくださるお客様や、我々の絶対に諦めない姿勢に共感してくださるお客様もおられます。それらが実を結び、実績に繋がっています。
その実績をプロモーションすることで、「Mujinを使ってみよう」とおっしゃってくださるお客様が増えています。いわゆるアーリーアダプターと呼ばれるお客様ですね。ここが現状だと思います。
目指している世界観を実現するためには、技術がより良いものになって、能力が上がり、値段が手頃になる必要があります。その頃には、世の中の半分くらいであるアーリーマジョリティーの方々まで産業用ロボットが広まり、より豊かな世の中になるでしょう。
冷凍庫対応の知能ロボットも視野に
- 今後Mujinが挑戦しようと考えていることを教えてください。
今後は、冷凍に関する技術を進めていきたいと思っています。現在でも世の中には冷凍倉庫で使えるロボットはありますが、それは生産工場で流れてくるモノを出荷用に積みつけて準備をする用途に使われています。そうではなくて、冷凍庫内に積まれた荷物の中からピッキングするといったニーズに応えたいと考えています。
例えば、スーパーの保管庫では、冷凍食品をたくさん保存しています。それをピッキングするには、マイナス25度の冷凍庫で人が作業をするか、もしくはマイナス5度、0度帯の場所に仮置きをして、そこで人がピッキングするか、どちらかの方法になります。
しかし、そういった冷凍庫でピッキングをロボットが対応するのは技術的に難しい面があります。冷凍環境下に対応するカメラシステムがなかったり、エアーで吸引するタイプのハンドだと中身が凍ってしまったりするからです。
技術的に難しいのですが、冷凍庫に対する技術開発を進めたい理由は、労働環境が過酷だからです。冷凍庫は常温の場所とは異なり体の負担が大きいため、長い時間継続して庫内で働くことができません。体への負担を考慮し、こまめに休憩を取らなければならないのです。仮に、1時間働いたら15分休まなければならないとすれば、5時間かかっても4時間分の作業しかできません。(会社によって規定の違いあり)
そのような環境下のため、時給が高くても、辞めていく方も多いと聞きます。時給を高くしても採用が難しいとなると、会社として事業継続性の課題も出てきます。そういった課題に対して、冷凍環境に対応可能な知能ロボットを開発することで、自動化を導入していただく意義は大きいと考えています。
ー まさしく、”Mujinが実現を目指す世界観”に近づくソリューションですね。今後の展開を楽しみにお待ちしています!