概要

150年以上の歴史と共に進化する #01【日本郵便株式会社 上田 貴之】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。今回は日本郵便株式会社で郵便・物流事業統括部の担当部長を務める上田貴之さんにインタビューしました。#01では、「日本郵便の新改革」についてお話いただきました。

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▼ 日本郵便株式会社 郵便・物流事業統括部 担当部長 上田貴之氏
長崎県波佐見町生まれ。1991年に郵政省入省。郵政事業庁、日本郵政公社と郵便法人営業に携わり、特にゆうパック営業に注力。2006年には本社法人営業部へ。2007年、日本郵政株式会社へ出向。カタログ販売事業の立ち上げを行い、現在の物販事業のモデルを構築。2015年ごろからゆうパックやドローン、キャッシュレスなどを用いた郵便・物流事業を中心に、抜本的なオペレーション改革に取り組む。

歴史を守りながら進化するということ

― まずは、上田さんが現在取り組まれている業務について教えてください。

主に物流分野での〝オペレーション改革〟を進めています。これは、既存の業務の効率化だけでなく、新しい技術を活用して実証実験を繰り返し、これまでのオペレーションを抜本的に見直そうという取り組みで、スタートアップとの協業になることも珍しくありません。

日本郵便という組織は150年以上にわたって郵便配達を主要事業としてきました。郵便配達の「お客様からお預かりした荷物を配達側の地域に輸送し、配達する」というスキームは今も昔も変わりません。それゆえ、日本郵便に対して先進的な会社というイメージを持っている方は少ないのですが、実は世の中の社会環境や時代の変化に合わせ、日々進化しているところなのです。

例えば、どのような改革を行っているのでしょうか。

現在進行形で取り組んでいるのは、AIを活用した業務の最適化です。コールセンターで音声認識をして再配達依頼の受付業務を自動化したり、自動で配達ルートを作成する「自動ルーティングシステム」を導入しています。他にもドローンやロボットの配送への活用、物流センターにおけるロボットアーム導入による作業の自動化など、IoTや新技術を積極的に取り入れています

ドローンで物流をリデザイン

― 中でも上田さんが特に注力されているひとつが、ドローンの導入だとお聞きしました。詳しくお聞かせください。

「2024年問題」に代表されるように、郵便・物流事業を取り巻く環境はこれから極めて厳しくなると考えられています。そこで私たちは、2016年から「配送高度化」という取り組みをスタートし、ドローンや配送ロボット、自動運転車を活用した物流サービスの提供に力を注いできました。

これまで、特に中山間地域において、人的リソースを消費してしまっている現状がありました。山間部にある谷のような、高低差が激しい地域にポツンと一軒家がある場合、往復1〜2時間かけて配達員が荷物を届けなくてはならないのです。こうしたシチュエーションでドローンや配送ロボットを“配送の補完”をする役割として活用し、少ない人的リソースを最大限に活かせるようにしたいと考えています。

ドローンのプロジェクトはどこで行われているのでしょうか。

日本全国をフィールドとしています。 2017年12月、福島県南相馬市での配達ロボットの実証実験を皮切りに、2018年3月には東京都心で自動運転車の実証実験を、2018年11月には福島県内でドローンを活用した郵便局間の荷物輸送を開始しています。

その後も各地で実証実験を進め、2021年3月には千葉県習志野市にあるマンション内で、複数台の配送ロボットによる配送実験を実施しました。加えて、2021年12月には東京都の奥多摩町で、日本初のドローンおよび配送ロボットの連携による配送実験も行っています。

上田さんはご自身でも、ドローンの操縦資格や無線免許を取得されているそうですね。今後、ドローンの実用化に向けて見えてきた課題はどんなものでしたか。

ドローンの技術開発もさることながら、社会的受容性を高める活動が非常に重要だと感じました。ドローンは国のロードマップによって、高速道路や鉄道、山、高圧電線の上を横断することは禁じられています。そのため、試行錯誤しながら別のルートを探るのですが、最終的なルートを決定する際には、ルート直下に建つ多くの世帯を個別に訪問して許可をいただいたり、「ドローンが飛行します」という注意看板を設置したりと、大変な苦労を伴います。

また、ドローン1フライトあたり5〜6人ほどの人員が必要で、「これならひとりの配達員が荷物を運んだ方が、人員削減になるし早いのではないか」という意見も出ました。こうした状況を鑑み、今後ドローンを浸透させていくための課題は大きく3つあると考えています。1.重量やサイズのルール化、2.郵便物や荷物の受け渡し方法、3.生産性の観点で、どの機種をどの場所に何台置けばサービスとして成立するか、です。2030年までに中山間地域で配送の自動化を徐々に始め、都市部の集合マンションでも配送の自動化を進めていけるよう取り組んでいるところです。

改革とは”補完”だ!

ドローンなどを用いた〝オペレーション改革〟で、働き方はどう変わるのでしょうか。

新しい技術というと、いかにも「無人化」と思われがちなのですが、私たちは「無人化」ばかりを目指しているわけではありません。重点的に取り組んでいるのが、人の労力の“補完”になる取り組み。限られたリソース(資源)をどのように再構築して仕上げていくかが、本当の意味での〝オペレーション改革〟だと認識しています。例えばドローンや配送ロボットを導入する場合、働き手からすると「すべてが無人機に置き換わっていくのではないか」という不安が少なからず生まれます。しかし、私たちは手厚いサービスを展開する上でヒトの手は絶対的に欠かせないものだと考えています。だからこそ先端技術のモビリティを導入し、配達エリアを縮小させられる仕組みを構築しようとしているのです。

インタビューの様子

日本郵便という歴史ある組織として、新しい取り組みに向かっていく姿勢はどのように捉えていますか。

会社としては150年以上の歴史があり、民営化以前は郵政省という官の身でもあったので、やはりアナログな部分があるのは否めません。たとえばペーパーレス化についても、全社的に推進してはいるものの、これまでの慣習が中々抜けず想像通りに進んでいないのが正直なところです。しかし「社会環境の変化に対応できるように成長していこう」というマインドが、組織全体に生まれていることはひしひしと感じています。コロナ禍では本社の総務や人事担当がリモートワーク環境を非常に短期間で作り上げ、全社に普及させることができました。これはやはり、「変わりゆく世の中に柔軟に対応していかなくてはならない」という幹部と社員の思いが一致した結果だと捉えています。

お話にあがったペーパーレス化については、物流業界でどの企業も苦労しているところです。日本郵便ではどのような取り組みが行われていますか。

「局内コミュニケーション」という動画ツールがあり、各郵便局で実施してもらいたいサービスや業務の内容を、業務用スマホから動画で見られるようにしています。文書の中には、やはり正式な形式をとることで意味をなす重要施策もありますが、中には「パソコンの操作方法」や「名刺の管理の仕方」などの内容もあり、それらの文書が社員にとってプラスに働いているのか疑問に感じることもしばしば。

そこで、伝達内容を文書ではなく動画で展開するテストを行ったところ、社員から「ミーティングの時間が短くなる」「情報量がどんどん入ってくる」と非常に良い反応をもらえたのです。文書の存在を否定するつもりはありませんが、情報をより良く最大効率で伝えるものとして、デジタルツールはこれからとても必要な意味を持つのではないかと思います。

― 伝統に縛られるのでなく、時代と環境に合わせて共に進化していく熱意と意気込みを感じました。次回は上田さんがどのように物流の世界へと飛び込んだのか、過去について伺います。

<取材・編集:ロジ人編集部>

次回の“知識と経験を糧にして、改革に挑む! #02″は 6/21(金)公開予定です、お楽しみに!

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