概要

魅力的な事業目的あってこそのリーダーシップ #03 【vol.9 石澤 直孝氏】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、日本郵船株式会社イノベーション推進グループのグループ長であり、NYKデジタルアカデミー学長として人材育成を精力的に行っていらっしゃる石澤 直孝さんにインタビューをしていきます。#03ではリーダーシップの構造や物流業界の面白さについてお聞きしていきます。

NYKデジタルアカデミー学長、日本郵船株式会社イノベーション推進グループ グループ長 石澤 直孝氏
NYKデジタルアカデミー学長。日本郵船株式会社イノベーション推進グループ グループ長を兼任。1991年に一橋大学商学部卒業後、日本郵船株式会社に入社。2006年から2014年まで国際標準規格団体GS1(本部ベルギー・ブリュッセル)物流部会共同議長を務めた。2014年から同社のインド現地法人に出向し、鉄道、港湾、物流の事業会社を設立。経営に携わる。2019年に現職に就任。物流の新たな価値を創造できる人材育成に取り組んでいる。著書に『DXの第一人者が教える DX超入門』。

ビジネスマンとして一皮むけるには

ー 先ほど、貴社が新たな価値を創造するために、社外のプロフェッショナルなキープレーヤーとつながるような提案ができれば、「ビジネスマンとして一皮むけるので、教育プログラムとして成功」と仰いました。(#02より)他者とつながり「ビジネスマンとして一皮むける」ために、石澤さんが大事だと思うことはどんなことなのでしょうか。

私たちNYKデジタルアカデミーは、企業が社会からの期待にこたえて、よく生き延び、成長するために最も大事な土台はその企業を支える人の集まり、つまり人的資源であると考えます。私たちにとっての「人的資源」は、必ずしもその企業の社員だけではなく、取引などを通じて協力関係にあるパートナー企業の皆様や、今は直接取引が無くても、その会社に好意や愛着などを持っていて、いざとなったら支援や応援をしてくれる人達も含みます。

そして、そうした人的資源が最も活かされるのは、個々人が立場や役職などに関わらずリーダーシップを発揮することであると考えます。

企業にとって大事なことは沢山あります。技術やノウハウ、それを支える組織、社会的な信用、幅広い営業網、考え抜かれた優れた事業戦略、金融資本もできるだけ潤沢であって欲しい。企業統治のための優れた仕組みや規律も大事です。数え上げたらキリがありません。いずれも大事なことですが、それらすべてを活かすのも、陳腐化するのも会社を支える人々がいかにリーダーシップを発揮できるか次第ですね。

企業活動にとって、なによりも大事なものはその会社を支える「人」であり、さらにその人たちが発揮するリーダーシップであることは、異論はないかと思います。

では、企業が組織的に、持続的にリーダーシップを発揮するためにはどうしたらいいのか?それは、どんな構造になっているのか?

経験豊富なビジネスパーソンであれば、おそらく「リーダーシップとはなんぞや」ということを良く理解されていて、心の中に答えを持っているのではないかと思います。

では「それでは、チームで共有するためにリーダーシップとはどんなものか、言葉で説明して、差し当たり何をしたらよいか、実行してみてください」と問われたとき、パッと答えられる方もいれば、分かってはいても何やらモヤモヤとしてスッキリと言葉にできない方もいるのではないでしょうか。

NYKデジタルアカデミーは、講義や演習を通じて、そうした皆さんのお役にたてるようお手伝いすることが使命であると考えています。

リーダーシップに必要なこと

さて、それでは我々が考えるリーダーシップですが、以下のような構造を説明しています。

リーダーシップの構造について

<リーダーシップの構造>

1 . 魅力的で共感をよぶ事業の目標を掲げ、戦略的抱負をみずから語る
2 . 1 に共感しエネルギーが高まった会社の社員、関係者が目標達成のためにやるべきことを、自発的に発案し、実行する

ここで大事なことは、まず事業の目標がハッキリしていることと、のみならずその内容が共感を呼ぶような魅力溢れるものであるということです。

仕事の目標や意義が共感できるものであり、さらに魅力的で心に響く戦略的抱負を聞かされると、ヒトの内発的動機(モチベーション)は否が応でも高まります。すると、自ずと仕事の生産性は高まり、あらたな創意工夫が生まれ、変化をチャンスと捉える洞察と意欲が高まり、新しいことに付き物の失敗に対する耐性・許容力が高まります。

一方で、事業の目的が漠然としていて焦点が定まらなかったり、組織のトップであったり、トップでなくても声の大きいメンバーが、「小言幸兵衛」のように小うるさく振る舞い、チェック機能を厳しくし過ぎるマイクロマネジメントな状態になってしまうと、どうしてもモチベーションが落ち、エネルギーが低くなってしまいます。

もちろん、仕事はやらなければならないことですが、エネルギーが低くなってしまった人はたとえ表面上は受け入れたとしても、心の中では首をすくめ決められたことしかしなくなってしまう傾向に陥ります。

そのため、特に変化に対応する自発性、柔軟性が低迷してしまいます。わざわざ失敗するリスクを取ってまで、新しい仕事にチャレンジしたり、組織に新たな能力を持たせるために技術開発をしたり、社外のプロフェッショナルと新たな関係を築くといった面倒なことをする意欲が低下してしまいます。

NYKデジタルアカデミーの演習では、受講者の皆さんが自分たちの人生観、仕事観を土台に「これなら四六時中考え、取組みたい」と思うテーマを決め、その意義、目標を、出来る限り魅力的な言葉で表現するために議論を尽くします。

「すべての現場で働くヒトのために、ケガのない世界を実現したい」「ゴミの発生しない物流を実現したい」「船舶の特性を活かして宇宙産業に貢献したい」「世界中の海を行き来する商船を使って、生物多様性の実態をもっと知りたい!なぜ、大好きなサンマが獲れなくなったか、その原因の追究に貢献したい」などなど、本研修で取組むテーマはいずれも、受講者のみなさんの本音、好奇心に基づいたものです。

取引関係などの接点が無く、初対面のプロフェッショナルの専門家に「おや、なんだろう?ちょっと話を聞いてみようかな」と思ってもらえ、さらに「この連中と一緒に、あれこれ考え、試行錯誤したら面白いかもしれないな」とつながり、組織・チームとして新たな能力を得るための大事な第一歩であると考えます。

なんだか、偉そうにリーダーシップについて語ってしまいましたが、実は「企業におけるリーダーシップ」については様々な学説・理論があり、諸説紛々としております。

NYKデジタルアカデミーとしては、「これがリーダーシップのなんたるかだ!」と結論めいたものを主張するつもりは毛頭ございませんので、あくまでも、受講者のみなさんに「こうしたら、いいかもしれませんよ」といった程度のものとご理解いただけたら幸いです。とはいえ、リーダーシップと人的資源が企業経営にとって最も大事なものの一つであることは間違いないと思います。

現状の延長にない違う事業環境が到来したときに目指すリーダーシップについて

伝統的な既存の業務を磨きこむために、今あるお客様と深くつながり、細心の注意を払いながら現場業務を「漸進的にカイゼン」するにしても、新しい事業を成功させるために早いスピードで決断して行動し、柔軟に考え、ミスや失敗に挫けず試行錯誤を繰り返し、所謂「破壊的なイノベーション」を起こすにしても、企業活動である以上、いずれもそれを実現する能力を組織が持っていることが必要です。

そんな高度で難易度の高い能力を新たに獲得するには、自分達で努力を惜しまず技術やノウハウを開発し、社外のプロフェッショナルのキーパーソン、企業とつながらなければなりません。そのためには、なんといっても、当事者であるメンバーがエネルギーを高く保ち、いくらでも湧き出るような内発的動機(モチベーション)を支えながら、「あの手、この手」で創意工夫を繰り返すことが必要ではないかと思います。

本研修を通じて、受講者の皆さんにそんな体験をしていただきながら、われわれ運営側も共に学び、成長の機会を得ることができたら、と考えています。

ー そうですね。そのように海外と融合する未来を考えると、日本人の「恥の文化」が少し足を引っ張る気がします。石澤さんが海外の方とどのようにコミュニケーションを図っているのかお聞きしたいです。

そう。完璧を求めることで日本人はいかに損をしてきたか。英語はざっくりでも、なんとか通じます。私もいつまでたっても英語が上手くならなくて困っていますが(笑)現地に入ればやるしかないわけですから。

「ただ運ぶ」だけではない物流のおもしろさ

ー 物流業界のやりがいやおもしろさはどこにあると思いますか。

この世の中では富とモノと情報が偏在しています。資源が溢れているところ、無いところ。情報をたくさん持っている人がいれば、持っていない人もいる。それを均すのが物流の仕事であり、おもしろさだと思っています。そこに切り込んでいく「意志」と「力」と「行動力」がある物流屋さんと、そういった視点のない物流屋さんには大きな差が生まれます。その視点がないとただの下請けになってしまう。

ー たとえば指示されたことだけを遂行するような企業ということでしょうか。

そうですね。「いわれたことだけをやる」のは、なかなか辛いです。しかし作業を担う役割も大切で、それで世の中は成り立っています。

でもやはりどこかで「自分たちで世の中を変えるのだ」という気持ちを持っている人、そうでない人では差が出てくる。「お客様の言う通りにモノを運ぶ」普段の物流の仕事はしっかり遂行しつつ、「俺たちは世の中の富とモノと情報の偏在を均してやるんだ」と気概を持って物流に携われたら、面白さが見えてくるのではないかと思います。

志を高く持てば持つほど、おもしろい世界が見えてきます。大変ですけどね。一方で志を低く持つと、ずっと地を這うような仕事になりかねません。

モノを止めずにしっかりと運ぶこと自体ももちろん大変です。しかしながらそこに+ αの価値がほしいと思います。それが私達にとっては宇宙産業への貢献であり、生物多様性への貢献であり、新興国支援への貢献です(#01より)。そういうことをやってみると、面白いですよ。

ー 物流に「ただ運ぶだけ」のイメージを持っている人は多いと思います。物流業界もビジョンを持って突き進んでいく意思が必要だと感じました。最後に物流業界に挑む若者たちにメッセージをお願いします。

挑戦をしてみてください。やってみると意外と大したことはありません。大したことないのにも関わらず、むやみにハードルを上げ、情報の非対称性を助長するようなことを言うような人たちの言葉には耳を貸さなくて大丈夫です。

真剣に物事を考えていて、才能・若さ・行動力があれば、所属している企業や学歴、社会的評価なんて関係ありません。考え方に共鳴するかどうか、体を張って行動できるかどうかが重要です。物流業界には希望がたくさんあります!

物流の基本構造について

ー 石澤さん、本日はありがとうございました!

<取材・編集:ロジ人編集部>

次回は3/31(金)公開予定です!お楽しみに!!

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