概要

変革期の「物流業界」 #04 【vol.3 小野塚征志氏】

ロジ人では物流テック(LogiTech)と分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。#04では物流業界にとっての省人化や標準化とは何なのか、そして最後には業界の担い手に向けて熱いメッセージをいただいております。

▼ 小野塚征志氏

ローランド・ベルガー パートナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なプロジェクト経験を有する。内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長などを歴任。近著に『DXビジネスモデル』、『ロジスティクス4.0』。

省人化と標準化

ー ロジスティクス4.0について、省人化と標準化とは何なのか、新卒でもわかるように教えて欲しいです。

物流の世界って、今足元でものすごく変化が起きようとしているので、市場としては面白いと思います。ぜひチャレンジしていただける方がたくさんいたらいいなと。

では具体的に何が変化するんですかというと、「省人化と標準化」です。

「省人化」は、例えば自動運転トラックが挙げられます。トラックが自動で運転してくれるため、人が乗る必要がないからです。倉庫内の例ですと、人とロボットが協調することも省人化といえます。例えば、100人が働いている倉庫でロボットが導入される。その暁には50人で作業が回るようになる。これが人員を減少させる、省人化です。

要するに、機械化、自動化が進んでいってだんだん人が要らなくなってきますよというのが「省人化」ですね。

対して「標準化」は均質化することです。これは省人化と密接に関係しています。省人化の例として、自動運転トラックがあります。トラックを動かそうと思ったら、当たり前ですけど、宛先の情報をトラックに入力する必要がありますよね。入力しないと、行き先が分からないからです。

ロボットも同様です。荷物の重量や大きさの情報を教えてくれるから、荷物をつかむことができる。とあるロボットベンチャーは、そんな情報がなくてもつかめる素晴らしいロボットを作っています。ただ、荷物をつかんだ後に、大きさや重量といったデータが蓄積されます。

だから結果として、デジタル化が進みますと。そうするといろんな情報がデータとして蓄積され、全部の情報がどんどん繋がるようになり…つまりは、繋がらないことが不便になります。

例えば、パソコン黎明期には、パソコンでインターネットに繋がるパソコンもあれば繋がらないパソコンもあったわけですよ。どう考えたって繋がった方が便利じゃないですか。

OSを共通化した方が便利だから、とりあえずみんなWindowsにしようと。当時はみんなInternet Explorerを使用して、ブラウザがどんどん標準化されていくんですよね。だってその方が繋ぎやすい。端子がみんなUSBになったというのと同じです。

つまり、省人化、自動化が進むと、デジタル化が進みます。デジタル化が進むと、情報が繋がるようになり、標準化が進みます。これが省人化と標準化の両輪で、ロジスティクス4.0が進むことに繋がります。

更に追加させていただくと、この省人化と標準化ってロボットメーカーが儲かるよねと。儲かると思いますが、ポイントはそれだけじゃなくて、ゆくゆくは装置産業化するというのがポイントです。

ありとあらゆる情報が繋がり、現場が機械化されていくと、当たり前ですが、この物流センターにはA社製のロボットが入ってます。隣の物流センターも同じですと。この時、生産性って完全に一緒ですよね。同じロボット入れば同じ生産性になるに決まってるじゃないですか。

トラックもそうですよね。同じメーカーの自動運転トラックで、こっちの方が早く着くなんてことはありえない。だからオペレーションは均質化していくわけですよ。均質化するということは、投資をすれば儲かるというビジネスにどんどん変わってきます。

今、日本にはトラック運送会社が6万社以上もあって、それはなぜかと言えば、人を集めてトラックを動かせば仕事になるからです。

だから人を集めることがポイントだったわけですけれども、機械で動くようになれば、その設備さえあれば物を動かせるということになります。しかもそれが、標準化してデジタル化するということは、どんどん差別化しにくくなるわけです。

そうして見たときに、トラック運送会社って日本に6万社も必要ですかと。そういう状況になってくる。

例えば、若い方はご存知ないと思いますがメガバンクって今は3社ですよね。昔、大手銀行って20行近くあったんですよ。それは銀行の世界ですけど、他の世界も同じようにコンビニだってもう事実上3社ですよねと。宅配だって、昔たくさんありましたが今は3社ですと。

といった現状を見ると、物流業界でもそういうデッドオアアライブの戦いがこれから始まります。デッドオアアライブっていうと、なんかデッドっていうのがすごくドキドキする感じですが(笑)でも、フィーバーする大チャンスってことです。大ホームランを打てるチャンスが今この物流業界にはあります。

世界を牽引するのはどっち?

ちなみに省人化と標準化のどちらが重要だとか、どちらかが実現困難かという意見がありましたら教えてください。

「標準化」の方が一見簡単なんですよね。ハードにソフトウェア入れたらデジタル化されて共通化するんじゃないのと思いますが、半分Yes、半分Noです。

例えば、AIで画像認識できるようになれば、伝票の字が汚くてもレイアウトが違っていても情報が読み込めるようになるので、標準化は比較的簡単にできます。

でも標準化するものはデータだけではないんです。データ、要するにソフトだけでなくパレットやトラックのサイズなどあらゆるものが、ゆくゆくは標準化される。あるいはロボットの種類とかも標準化されていくはずなんです。

でもそれって時間がかかるし、ある意味、今あるものを捨てなきゃいけないシチュエーションが来ちゃうんですよね。

今まで使ってたパレットのサイズ合わないからもう全部捨てましょうみたいな、極端に言うとですよ。そういうシチュエーションがあるわけです。標準化って、ソフトとか情報はいいんですが、ハードがすごく大変で。

そういった部分を踏まえると個人的には、実は省人化が世界を牽引すると思ってます。省人化は【スタンドアローン※】で投資対効果が見極めやすいんですよ。
※スタンドアローン:コンピュータや情報機器が、ネットワークや他の機器に接続しないで、単独で動作している環境を意味する。

物流センターの中でこのロボットを使ったら、明らかに人間が積み替えるよりも安くなる。そういうことになったらみんな導入しますよね。

例えば今、コピー用紙のサイズってAかBの2つの規格しかないですよね。あれってなぜかというと印刷機、輪転機ができたからなんです。(江戸時代の頃はそんなものはなかったので、自由気ままにいろんなサイズの紙があった)そこから揃うようになったわけですよ。揃っている方が明らかに便利ですよね。変な紙のサイズだと印刷できないじゃないですか。

さっきのロボットも一緒ですと。このロボットは何でも使えますっていうロボットももちろんありますけど、同じサイズの方がどう考えたって生産性高いですよね。

そうすると、「うちのサイズに合わせてくれたら、値段は半分ですよ」とか、「生産性倍ですよ」と言えば必然的に揃ってくんじゃないんでしょうかと。

最初に投資対効果を考えて自動化・省人化を進めました。進めた結果、ハードの標準化も進んでいく。だから、自動化・省人化を進めることがキーになるんじゃないのかなと思ってます。

確かに今は当たり前のようにA4とかB4とかって世の中の仕組みに入っていますよね。物流でも同じことが起こっているとなると標準化は進みそうですね。

おっしゃる通りです。ただもうヨーロッパだとその話が進んでてですね、ドイツだと、GS1という日本も加盟している世界標準の仕組みがあるんですが、そこではオリコン(折りたためるコンテナ)の標準化を進めようとしてます。

日本なんて現状はコンビニ配送されるオリコンってバラバラじゃないですか。そういうものまで標準化されると、全部ピタッとはまるようになります。

物流業界が面白いワケ

将来、物流の担い手になる若手にメッセージをお願いします。

物流の業界にちょっと関心がある若い方っていう感じですかね。そういう方に向けて言うと、どう考えたって物流業界は変革期なんですね。もちろん、なくなる会社やなくなる職業も出てくると思います。でも、だからこそ新しいビジネスが生まれて、新しいチャンスが生まれる。これほど面白い業界はないと思います。

例えばITってそうなんですよね。昔は、それこそパソコン通信では皆さん知らないようなシステムがあり、いろんな国産パソコンメーカーがありました。しかし、結果として残念ながらパソコンメーカーのいくつかは潰れたり、中国の会社にブランドを売り払ったりしました。今、パソコン作って儲かってる会社はほとんどいないんじゃないのでしょうか。

結果として生まれたGAFAみたいなビジネスで世界を席巻していますよね。日本だって、例えばインターネットができたからこそメルカリがあったり、LINEがあったりするわけですよ。

つまり新しいこのITというインフラをもとに新しいビジネスが生まれたわけです。ロジスティクスも同じです。

残念ながらこのままいくと、今までの物流会社さんの今までのビジネスというのは成立しなくなっていくと思います。そのために、チェンジをしなきゃいけないと。

他方で、新しいビジネスを、今皆さんが実現していただいてももちろんいいと思いますし、何か起業してとか、違う会社でということを考えたときに、この業界には、皆さんがジェフ・ベゾスになれるチャンスが目の前に転がってるわけですよ。

ぜひそういう視点で、物流というものにトライをして、チャレンジしていただけたら面白いんじゃないかなと思います。

物流業界はまだまだ変革する余地があるということが良く分かりました。本日はお時間いただきありがとうございました!

(インタビュアー:小早川)